『中津川昔話集』 B6版
- (上)45・12・20 100頁
- (下)46・1・25 104頁
白川ダム建設のための水没地区緊急民族調査は私にとって忘れることのできない一つである。最後の盆踊り大会の花やかな踊りと、これでひとつの村が消えるという悲しみが渦をなして小学校の校庭が思い出される。そんな気持が私の昔話調査を必死にさせたのかも知れない。小坂の男鹿てつのさん、須郷の大石きみよさんをはじめ、後藤とよさん、鈴木ひろさん、山口すえのさん、佃すゑさん、山口ふみさん。それに井上元一氏などは、今もあの時の姿で目の前にほうふつする。下屋地の山口ふみさんの家を夜尋ねて、戸を開けると馬が長い顔を出して迎えてくれたのも思い出すし、高橋うんさんのところですばらしい子守唄をきいて、ひょいと目を上げると、囲炉裏の火棚からぶら下がった紐が、実はマムシの干物であったことなどを思い出す。岩倉の後藤とよさんの孫さんからの礼状に「中津川のおばあちゃんたちの昔話を読んで、笑ったり、じょとば使いがおかしいので家族みんなで楽しみました」という言葉に、ガリ版が後に立ったと、本当にうれしかったことをなつかしく思い起こす。数日のうちに、何と百話をきくことができたこと、もっと探すことができたろうとは思いながら、他の分野での調査もあって中断したのは、今にしてみれば残念なことである。また井上元一氏のところで見せてもらった瞽女の教則本は現在長岡市の科学博物館に保存されているが、こうした思わぬ発見が重なったのもうれしいことであった。一つの地域にどんな昔話があるかを知る必要があると考え、同話系のものも細大もらさず集めたのはこの時がはじめてで、現在では調査の常識になっているが、私にとっては一つのアイディアのつもりだった。