大学紹介

令和3年度学位記修了証書授与式 学長式辞

本日、東北文教大学、東北文教大学短期大学部を卒業される皆さん、そして留学生別科を修了される皆さん、卒業、修了おめでとうございます。このように一堂に会して皆さんの学位記修了証書授与式を行えることを大変うれしく思います。お忙しい中を御臨席賜りました保護者会会長の西崎覚信様、教育後援会会長の長谷川憲治様、同窓会会長の佐藤克子様を始め、御来賓の方々には、常に本学を温かい目で見守り、支え、応援してくださることに対して改めて御礼申し上げます。ありがとうございます。そして、卒業生、修了生の保護者の皆様、本日はまことにおめでとうございます。ここに至るまで、さまざまな御苦労もあったかと思いますが、御子息、御令嬢は本学の教育課程を立派になし終えて、この良き日を迎えています。心よりお祝い申し上げます。

さて、今年度の卒業生、修了生は、人間科学部子ども教育学科81名、短期大学部総合文化学科44名、子ども学科86名、現代福祉学科34名、留学生別科4名、総計249名の皆さんです。皆さんが本学で学んでいる間、自然災害や感染症の拡大という予測のできないこと、複雑で簡単には解決策の見いだせないような社会問題など、世の中にはさまざまな出来事がありました。特に、新型コロナウイルス感染症の拡大は、皆さんの学生生活にとって大きな出来事だったと思います。人間科学部を卒業する皆さんにとっては学生生活の後半が、そして短期大学部を卒業する皆さんと留学生別科を修了する皆さんにとっては入学してから卒業、修了するまでのすべての期間が、感染拡大の中での学生生活でした。本学においては一時的な措置であったにせよ、キャンパスの閉鎖、実習、課外活動、行事の中止や変更などがあり、学生の皆さんは不安になったり、あきらめを感じたりしたこともあったのではないでしょうか。私たち教職員も、これまでに経験したことのない事態に直面して、感染の拡大を防ぐことと正常な教育活動を維持することの両面から、大切なことは何か、どう行動すべきかを日々考え、実行してきました。その中で私なりに気づいたり考えたりしたことを、本学を卒業、修了し、新たな世界へと旅立っていく皆さんへの「はなむけの言葉」として贈ります。

新型コロナウイルスが大学で感染し始めると、どの大学も授業を対面から遠隔に移行しました。いわゆるオンライン授業です。それは、感染症対策の便利で強力な武器となりました。授業の参加者を空間的な縛りから解放してくれるオンライン授業は、さらにオンデマンドのタイプともなれば、参加者を時間的な縛りからも自由にしてくれます。今後、オンラインによるコミュニケーションは、様々な分野において取り入れられ、定着し、社会にとっての必要不可欠なものになるでしょう。私たちは、そうした変化を受け入れ、対応していかなければならない時代に生きています。しかし、人のコミュニケーションのあり方として、その変化を無批判に受け入れてよいのでしょうか。オンライン、すなわち人と人とがリアルに接触しないという方法は便利で、感染症対策の強力な武器ではありますが、それに頼りすぎるならば、人と人とのつながりの土台が脆弱なものになるのではないかと危惧しています。

霊長類の研究家として知られている山際寿一氏は、人間が複雑で大規模な社会を構築できているのは、人間には共感する力があるからだといいます。そして、人が仲間とのつながりを持つには、「時と場を共有し、対面して、相手の表情や態度から気持ちを推し量ることが、いまだに最善の方法である。」と述べています。傾聴すべき意見であると思います。私たちは、コミュニケーションのあり方が激変する時代に生きていますが、その変化はコミュニケーションという行為や出来事のよく見える部分の変化、樹木で言えば幹や枝葉にあたる部分の変化です。私たちは、技術の進歩による変化に対応していかなければいけませんが、しかし、それはコミュニケーションという樹木の根っこにあたる部分を軽視してよいということではありません。人のコミュニケーションを支え、見えないけれど根源的な力となっているのは、人の持っている共感力であり、それを育む土壌となるのは、人と人とが時間と空間を共にする体験なのだということを忘れないでください。

もう一つ、このことと関係して皆さんにお話ししたいことがあります。それは言葉についてです。言葉はコミュニケーションの中核にあるもの、樹木で言えば幹や枝葉に当たるものです。人と人とが思うままには接触できない状況にあっても、コミュニケーションをしっかりとしたものにするには、言葉を頼りがいのある確かな存在にしなければなりません。世の中には無数の言葉があふれていますが、それらは、そのままでは頼れるものではありません。言葉を自分の力にすることが大事です。

ヘレン・ケラーと家庭教師のサリバン先生との有名な逸話を御存じでしょうか。「奇跡の人」という映画や舞台にもなっているので、知っている人も多いでしょう。ヘレンは、視覚と聴覚の二重の障碍者です。ある時、家庭教師のサリバン先生がヘレンを散歩に連れ出して、ヘレンの手に冷たい井戸水を触れさせます。そして同時に、ウォーターという文字をその手に何度も書くのです。そうした出会いを体験することでヘレンが言葉というものを認識することができたという、この逸話は、まさに劇的なものですが、言葉を自分の力にすることの原型と言えるでしょう。大事なことは、物事と出会い、言葉と出会うという経験をたくさん持つことです。体を動かすことが健康な体の基本であるのと同じく、考えや感情を自分の言葉で表すことが、言葉を自分の力とするための基本なのです。そして、もう一つ大事なことは、多くの言葉やその使われ方と出会うということです。その方法として、読書という行為に勝るものはありません。読書という行為で、言葉で描かれた世界を理解し、想像するということは、自分のいる世界とは異なる世界に身を置くということであり、安易に小さく固まりがちな自分の世界を、広く、深くするということです。読書は、人と対面しないからこそできる行為です。いまこそ、書を読み、言葉を自分の力として頼りがいのあるものにしましょう。そうすることで、コミュニケーションのあり方が激変する時代を力強く生きてほしいと願っています。

東北文教大学は、「敬愛信」という言葉を建学の精神としています。「敬」は学びの原動力となり、「愛」は人と人とをつなぐ絆となり、「信」は未来に向かう意志となるものです。私たち教職員は、この建学の精神に則り、皆さんが豊かな人間性と確かな実践力を持つ人間として活躍できるよう、支え、指導してきました。皆さんへの思いはこれからも変わりません。 結びに、あらためて皆さんの卒業、修了を心から祝福し、輝かしい未来に向かい元気に活躍されることを祈念して、学長式辞とします。

令和4年3月23日
東北文教大学
東北文教大学短期大学部
学長  須賀一好