令和2年度学位記授与式 学長式辞
日増しに心地よい風と柔らかな日差しが多くなりました。雪国のすべての命が躍動を始めるこの良き季節に、このように一堂に会して学位授与式が挙行できることを学長として大変うれしく思います。
本日、東北文教大学人間科学部を卒業した九二名の皆さん、そして東北文教大学短期大学部を卒業した一八八名の皆さん、御卒業おめでとうございます。本学での学生生活を終え、晴れて学位を授与された皆さんを心から祝福します。また、本日、卒業された皆さんを、きょうの卒業の日に至るまで、物心両面において支えて来られた保護者の皆様に対しましても、心からお祝い申し上げます。
さて、本日卒業された皆さんが学生として過ごしたこの数年間は、私たちが、人と人とのつながりについて、あるいは、私たち一人ひとりと社会との関わりについて、あらためて気づき、考えるきっかけとなることが多くあったように思います。
昨年からは、新型コロナウイルスの感染が世界中に拡大し、世の中は、感染を防ぐことと経済や社会を動かすこととの間で大きく揺れ動きました。そして大学は、都市部を中心に多くの大学がキャンパスを閉鎖する事態に陥りました。当初は、本学も遠隔での授業を行いましたが、前期の途中からは、感染状況に注意を払い対策を施しながら、教室での授業を実施してきました。本学は、学生たちがキャンパスに集い、関わり合い、ともに学ぶことで成長が実感できるような大学の環境をできる限り保っていきたい。そう考えています。大学祭やスポーツ祭などの行事を行うことはできませんでしたが、皆さんの協力のおかげで、これまでキャンパスを閉ざすことなく、学生生活を維持することができました。このことは、「敬愛信」を建学の精神とする本学の教育にとって本当によかったと思います。本学で学んだ皆さんは、これまでの学生生活で蓄えた力をこれから存分に発揮してほしいと思います。皆さんには、その力があるのです。あとは自分を信じて、力いっぱい実践するのみです。未来に向かって大きく成長していかれることを期待しています。
今年は、東日本大震災から十年目の年です。あの日、私たちは、それぞれに大震災を体験しました。そして、地震で発生した津波はあまりにも多くの人の命を奪い、深刻な被害を地域社会にもたらしました。そうした辛く厳しい出来事を経て、私たちは、人とともに生きることの大切さにあらためて気づき、人が人を支え、人が人に支えられる、そういう社会でありたい、そういう社会にしていこう、そう思ったのではないでしょうか。
皆さんの多くは、四月から社会人として、それぞれの責任を果たしていくことになります。保育や教育、福祉という分野の仕事は、とりわけ、人々の生活や人生と密接に関わり、地域社会の現在と未来とに大きな影響を与える仕事です。企業での仕事も広く社会を支え、創っていくことにつながっています。これから皆さんの行う毎日の仕事が、単に日常的な営みの連続のように思えるとしたら、それは、目の前のことだけが見えているからだと思います。私たちは、仕事をすることを通して社会とつながり、望ましい未来へとつながっていく、そう信じて自分の責務を果たしていくことが社会人として生きるということなのではないないでしょうか。
社会には、いろいろな立場の人や異なる考えの持ち主、さまざまな境遇に生きる人たちがいて、ともに今を懸命に生きています。今後は、自分とは異なる立場や境遇の人たちがますます多くなり、社会の多様性は確実に増していくでしょう。その中で、私たちは社会人として、どのように生きていけばいいのでしょうか。
そのことを考える上でヒントを与えてくれたのは、『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』という本でした。この本の著者は、イギリスのブライトンという町でアイルランド人の夫と息子との三人暮らしをしているブレイディみかこという女性です。彼女は、九州福岡の高校を卒業した後、イギリスに渡って働き、現地で保育士の資格を取得して貧しい人々の暮らす地域の保育所で働いた経歴を持つ人です。そのブレイディみかこさんが地元の中学校に通う息子の日常について書き綴った『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』という作品には、収入の格差や人種差別によって社会が分断され、対立が深刻になっているイギリス社会の日常が、筆者独特のクールな観点から描かれていて、私は、読んでいて多様性社会に生きることが楽なことではないことがよくわかりました。そして、そうした楽ではない社会にあっても果敢に前に進み、新しい何かと出会い、成長していく子どもたちのようすや、迷いながらもより良い未来を目指して生きていく大人たちの姿からは、どんな状況になってもしなやかに生きていく覚悟のようなものが感じられて感銘を受けました。この本を読んで考えたことを私なりに言えば、これからの多様な社会を生きていくには、勇気を出して前に進むこと、さまざまなことをもっと知ること、そして想像力をもっと働かせること、こうしたことがこれまで以上に重要になるだろうということです。それは、自分を変えていくことへの覚悟を持つということでもあります。
いま皆さんは、慣れ親しんだ学び舎を離れ、新たな世界に飛び立とうとしています。自分を信じ、勇気を出して、なりたい自分に向かって進んでいってください。
結びとして、あらためて皆さんの御卒業を心から祝福し、皆さんが元気に活躍されることを祈ります。御卒業おめでとう。
令和3年3月22日
東北文教大学・東北文教大学短期大学部
学長 須賀一好