全体の傾向

南山形のことばの残存度について、概略を報告する。次のことばに添えられた数字は使用度を示す。アンケート結果を100点満点法で示したものである。アンケート項目は南山形の高年層の方々の協力を得て作成してあるので、全般的に使用度が高い傾向となっている。

100~81点(39語)

くたびっだ98、ごしゃぐ98、なんぼ(金額を尋ねる)96、ほんてん96、めんごい96、ちゃっちゃど95、たまげる95、うがい93、がおる93、けろ93、たがぐ93、ちちゃこえ93、みだぐない93、おがる91、くらすける91、ごんぼ91、かしぇぐ89、こばくさえ89、すなこえ89、なんぼ(個数を尋ねる)89、はばげる89、ぶんど89、みっつら89、わらわら89、んぼこ89、ちょす87、まま87、ゆすばぐ87、あべー86、かすますえ86、がらがら86、たねる86、ままつぶ85、あっちゃ84、このげ84、ほだな84、やんなえ83、へな82、めちゃこえ81

80~61点(29語)

えだますえ80、ととこ80、ほろげる80、あざぐ80、しぇめる80、しゃっぽ80、ぺろっと80、むがさり(結婚式)80、ふちゃばぐ80、すびた75、つかす75、へぶくれる75、ぼだす75、かえづ74、がしたふり74、ずごねる74、かずげる73、やじゃがね73、えっきつかす72、しゃます72、すんけたかり70、てしょずらすえ69、あんにゃ(兄)67、さぶろ67、あぶらすこ67、あねこ(姉)65、ばよいくら64、きびちょ64、むがさり(花嫁)61

60~41点(24語)

むがさった59、がえらんご59、ちょーま59、しぇんつ59、ずだらばだら57、ちゃんころまえ57、へそび57、やぐど57、てぼこ54、おどがえ54、ふご54、あます52、かっちゃわすねえ50、がんまい50、すねこぐれる50、めろず48、やぐどんこ48、ふたぐる47、まえみ45、いっけなか43、あねこ(下女)43、あどつぁま43、らんば43、おど42

40~21点(12語)

でんずく37、ちゃぺ36、ばんきり36、ほでなす36、しして35、あんにゃ(下男)34、おかめへな33、あかはら30、ふだくる29、ちゃんちゃんぽこ26、こっつぁら23、ざらぶ22

20~0点(8語)

あや(乳母)20、ずきする20、こばだ17、ばよっつらえ14、あや(母)12、ずんたんぽ9、はったぎ9、ぼんきり5

ことばの残存と衰退

ことばの使われ方には、時代の移り変わりに応じて衰退していくものと、時代の影響を受けずに残存してゆくものとがある。凡例にも示すように、衰退と残存の分析では60代以上と以下とで世代を大きく分けた。これは、いわゆる言語形成期(5~12、13才)を迎えるまでにテレビの普及が始まっていたかどうかを分けるラインでもある。

60代以上の得点と60代以下の得点との差が小さければ今後も残る可能性の高い「残存傾向語」、差が大きければすでに若い世代には使われなくなりつつあり、かつこれからますます使われなくなることが見込まれる「衰退傾向語」、とそれぞれみなすことができるだろう。差が小さな上位10語と大きな上位10語を取り出し掲げる。次のことばに添えられた数字は、得点の差を示す。

残存傾向語

ほんてん-1、くたびっだ4、ごしゃぐ4、あべー6、たねる7、なんぼ(金額を尋ねる)8、めんごい8、ちゃっちゃど8、たまげる8、くらすける8、なんぼ(個数を尋ねる)10、あっちゃ11

衰退傾向語

あます62、おどがえ63、がえらんご64、やぐど64、めろず66、ばよいくら67、きびちょ67、かっちゃわすねえ67、でんずく67、むがさり(花嫁)69、むがさった69、らんば73、へそび79、まえみ83、あねこ(下女)86

残存傾向語には、日常のコミュニケーションに普遍的に用いられるような、感覚的な語彙、動作に関わる語彙、副詞や形容詞が多い。衰退傾向語には、生活様式に関わる語彙が目立つ。これらのほとんどは標準語への言い換えが進んでいるものと思われる。こうした傾向は先行研究(佐藤和之『方言主流社会 : 共生としての方言と標準語 東北篇』(おうふう、1996)の報告とも軌を一にする。ただし中には生活様式の変化により、ことばのみならず概念も消えつつあるものがある。薪からガスを使う生活に変われば、鍋底のすす「へそび」を見る機会は少ないだろう。養蚕業がほぼ消えた今では「まえみ」も使われない。かつては南山形でも多く見られた住み込みの「下女」も今では見られない。

世代間の違い

右に見た残存傾向語は、使用度全体からみても高く、世代を超えて今も使われていることが確かめられる。上には掲げていないが、すでにほとんど使われなくなりつつあることばもある。使用度全体としては60点程度を保ちながらも、今後急激に衰退していくことばがそれである。

以上、残存と衰退に関わる主なものを、世代別に図示する。

残存傾向語

ほぼ使われなくなりつつある語

衰退傾向語