88 おんぶお化け

 むかしむかし、楢下から上山さ用達し行って来っど、姥懐のお諏訪渕あたりの近所まで来っど、「うばっだい、うばっだい」ていう音する。んだから丁度暗くなっど、「うばっだい、うばっだい」て音する。女子どもは暗くなっど、ほこ通らないがったんだどはぁ。ほして何か化物いたに相違ない。ある人なの、
「いや、うばっだいていうから、うばらっしゃい」  なて言うたれば、足折だれるほどに重たい奴、ドサッと負(お)ぶせらっで、いや、ひどい目あって、骨接(つ)ぎさ行ったずまぁ。なていう話あるんだけど。ほうすっど楢下に非常に力持ちな人いて、
「よし、んだら、おら、うぶってみたい」
 て言うたんだけど。ほしてロープ持(たが)って、ちょうど夕方来たらば、「うばっだい、うばっだい」て音するんだけど。ほしたけぁ、その力持ちのじんつぁ、
「ほう、ええ、ええ、うばらっしゃい」
 うばったればいきなり、グイッとロープ掛けて、ワッショて立ってちょこちょこて、家まで背負ってきた。ほして、
「福の神さま、福の神さま、何さ寝っだいもんだ」
「大っきい味噌コガなのええな」
「ああ、ええ、おらえんな、大きいコガあっから、コガさ寝せる」
 ほして、味噌コガさ、
「こいっちゃ、休んで呉らっしゃい」
 ほして、その化物さ、ストッと四斗臼のコガかぶせてしまった。て、一人ばりで気持われから、隣近所の人にみな来てもらった。ほして夜っぴて寝ねで番してみっだ。何の変哲(へんてつ)もない。おかしい。あれほど「うばっだい、うばっだい」て言うた。ほして次の朝げになってみんな恐かないもおかない、見っだいも見っだい、開けてみんべと思ったら、開けらんね。なんとしても開けらんね。
「ほだごとない。ゆんべな背負って来たんだ」
 んだらばというわけで、みんなで、はいつさ綱かけて、皆して引っぱってみたんだど。ヨイショ、ヨイショて。ほうしたればやっと起きて、中から出てきたの大判小判そろっというけぁ、庭いっぱいなったんだけど。
「いやいや、化物だと思ったれば、大判小判だった」
 て、はいつが世の中さ出っだくて、うばっだい、うばっだいて言うたなだけっだなて。そして親類縁者、隣近所さみな分けて、みんな仕合せになったけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
(集成「おばっしょ」一六三C)
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