81 狐の恩返し

 むかしとんとんあったずま。
 楢下のお医者さんが朝起きて外さ出はったれば、狐コが一生懸命哀願するように手まねきしてるんだど。見たところが何だか怪我(けが)してるようなんだど。
「ははぁ、これは治療してもらいたいんだな」
 と医者は思って、
「よしよし、治療して呉(け)っから、こっちゃ来い」
 て、その狐ば手さ切傷みたいな付いっだのを、すっかり消毒して、ほして繃帯してやったんだど。ほしたればその晩、
「おれは治療してもらった狐の親でございます」
 悪いことをしたわけでないから、狐に悪れごとされっどは思わねで、ほして何言うかと思って聞いっだれば、
「狐のことだから、過分なことはできねげども、お礼のしるしでございます」
 て、酒一升と銭五円出して、
「何とかお医者さん、こいつ受取って下さい」
 て、こういうわけだど。医者は、
「そうか、そうか、んではまず有難く頂戴しておく」
 て言うて、狐が帰って行ってから、友人さ話したんだど。
「はぁ、その銭使われっか使わんねが分んね。店さ行って使ってみろ」
 ところが、こいつが本当の銭だった。しばらくおもったれば、また親狐が来て、
「おかげさまで、傷も治してもらった。息子さ嫁とってから、三人してすぐ来て呉らっしゃい」
 て来たんだど。ほして、友だち三人して禿山の峰の一本松まで三人がそろって行ったんだど。ほしたら若衆ばそこまで迎えよこしったんだけどはぁ。行ってみたところが、とんでもないすばらしい構えの家で、いや、御馳走もそこらここらにないような御馳走さっで、三人がまずホクホクていたんだど。したらば三人の女衆がいて、
「どれでもええから、今晩抱いて寝てけらっしゃい」
 て言うわけなんだど。
「ははぁ、こんどは本当にあぶないぞ、こりゃ狐だから褌だけぎっちりしめておかないと大事などこ噛らっだりすっどなんねぇなぁ」
 なて、三人がおどけていたんだけど。ほしてまた峯の一本松まで送らっで来たんだど。ほうしたればちょうど夜が明けて、お土産もらって友だちと、
「不思議なこともあるもんだねぇ、本当のものばっかりだった」
 て語って来たんだど。ところがその狐の息子が寝てたとき、ふいにどこかの若衆が鎌投げてよこして、手さ鎌ぶっつけらっだ。ほして手さ傷ついて、ししゃます(手を余す)しったところが、そのお医者さんが助けて呉(け)だんだけど。ところが丁度その若者がお嫁さんもらうようになっていたんだけど。ほして結納の五円と酒一升と嫁さんと仲人かかまで、すぱっと化かさっで取上げらっだんだけど。んだから女三人も酒一升も銭五円も本当だったていうむかしとんとんでございます。ドンピンカラリン、スッカラリン。

(集成「狐の嫁取」二八五)
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