80 狢(むじな)むかし ― 上山市山元の狢森 ―

 むかしむかし、山奥の細道のあるところで、ずうっと山奥に人里離れたとこに大きい森があったんだけど。その森さ、すばらしい古狢、大きい狢、あるいはたくさんの狢住んでいて、そしてそこ通る人を騙すんで、村人はその森の前を恐がって誰も通らねぐなったんだけど。
 ところがあるとき、この村の娘が嫁にむかさって行くに、是非ともここ通らんなねんだけど。ほしてどうしたわけか、その花嫁がその森んどこまで来たら、
「ちょっと用達して行きたい」
 て言い出したんだど。これはまた誰も我慢さんねんだから、これは仕方ないて、若い嫁さんのことだし、ついてることもいかねわけなんだから、みんなそこで一服しったんだど。ところがほの花嫁がいつまでたっても戻って来ねんだけどはぁ。ほして心配して仲人がほこら辺、ここら辺探してみたげんども、林の中はしんしんとして鳥の声など、ホーホーて聞えるだけで花嫁見つかんねんだど。それから何か月経ったか分んねげんども、花嫁のお父さんが娘が森でなぜしてんべなぁなて、毎日毎日考えて、眠るも眠らんねくてはぁ、心配していたんだけど。ほして若しかしたら、なて思って、森さ出かけてみたんだな。そしたば、森の奥の方から、かすかに何だか歌声聞えるんだど。ハッとしておっつぁんがその声の方さ近づいてみたれば、これはしたり、居なくなった自分の娘が、おっきい洞穴の前で洗濯しながら歌うたっていだんだけど。ほして、おっつぁんが娘さ近寄って、訳聞いだんだど。したらば花嫁姿のままの、森の狢が、花聟に化けていたほで、
「そのつもりではぁ、その狢の奥さんになってはぁ、今は狢と仕合わせに暮しているなだはぁ」
 て、おやじさんさ語ったんだど。ほして、
「かわいい子どもも生っだからはぁ、おっつぁん、おれの幸福あんまり邪魔しねでけらっしゃいはぁ」
 て、ほういう風に言って、おっつぁんが、「ほうか、ほうか、んでは仕合わせに暮せはぁ」て、すごすごと、そっから戻って来たんだど。それから誰言うとなくそこの森ば〈狢森〉ていうようになったんだど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
(集成「若返り水」)
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