79 若返り水

 むかしとんとんあったずま。
 あるところにじんつぁとばんちゃいだんだけど。じんつぁが毎日山さ柴刈りに行ったずま。ほしてその日に限って、あんまり稼いだんで、暑かくて暑かくてなんねから、どっかに水でもないべかなと思って、探(た)ねっだれば、小さな岩の間から冷たい水がコロコロ、コロコロていう音出して流っでいだんだけど。して、おじいさんは蕗(ふき)の葉っぱで、はいつすくって、ゴクンゴクンて飲んだら、その水の冷たくてうまいこと、うまいこと、飲んでいるうちに、だんだんアゴの髭がなくなって、おかしげなんだど。
「へえ、変だぞ、髭なくなってしまった。白髪もなくなった」
 ほだいしてるうちに、だんだん若衆になってしまって、この水は若返りの水だったど。飲むほどに若くなってしまったんだど。ほしてすっかり、
「ここら辺で、ちょうどええべな、あんまり若くなっていらんねべな」
 なていうわけで、すっかり若者になって、おじいさんが元気はつらつとして家さ帰って行ったんだど。
「ばんちゃ、ばんちゃ、今帰ってきた」
 て来たれば、ばんちゃんが誰だか分らねぐなってはぁ、
「あら、お前、どなた様だけべ、おれぁさっぱり分んない。ばんちゃ、ばんちゃなて気安く、おれば言うげんども」
「いやいや、ばんちゃ、おれだ。じんつぁだ」
 ばんちゃ、びっくり仰天したんだど。
「ほだな、本当だか」
「本当だ。明日行って、ばんちゃも飲んで来い。ほしていま一ぺん若くなって暮したらええべ」
 ほして教えらっだ通り、ばんちゃが、ほれ、帰りにあらくなって柴いっぱい背って来んべと思って、蓑と荷縄の太(ふ)っといな持って水飲んで帰り、柴背負って来る勘定なんだど。ほして教えらっだ通りずうっと行ってみた。ほうしたれば、やっぱりコロコロ、コロコロて音する清水が湧いっだんだけど。はいつ見つけて飲んでるうち、うまくてうまくてなんねくて、
「あんまりいっぱい飲むなよ」
 て、じんつぁにことわらっだんだげんど、その限界を越して飲んでしまったんだどはぁ。ほして子どもになってはぁ、勢(いきお)いついて飲んだもんだから、赤ん坊になってしまったんだどはぁ。夕方になっても、ばんちゃ帰って来ねもんだから若者になったじんつぁが探しに行ったんだど。
「ばんちゃん、迷子の迷子のばんちゃん、どうこさ行った」
 て。きっと水んどこだと思って、水んどこさ行ってみたんだど。ほしたれば、萱(かや)株(かぶ)の中でオギャオギャなて赤ん坊になっていだんだけど。んで、じんつぁ仕方なくて、「ああ、泣くな泣くな、よしよし」て抱いて来て、子守りしながら、こんどじんつぁ、その赤ん坊ば育てたんだど。ほして十六、七年も育てて、また夫婦になって、仲よく暮したど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
(集成「若返り水」)
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