71 恐れ山で会った妻

 むかしむかし、この宿さ、仲よく仲よく暮しった女房がポックリ逝くなって、何としても忘れらんねくて、気狂いになってはぁ、ふらら、ふららといだんだけど。ところがある人が、
「お前、ほだい奥さんのこと思い出しているんだったら、いっそのこと南部恐山ていうどこさ行って会って来い」
「そこさ行ぐど、霊媒ていうて、死んだ人の魂呼び寄せっどこあっから、ほこさ行くど、きっとお前の奥さんと会えるから行ってござっしゃい」
 はいつ聞いたその若者が喜んで、ほして身仕度して南部まで走るようにして行った。ほして南部さ行ったところが、
「恐山、どっちだべっす」
 て、聞いて行った。「ああ、こうこうこっちだ。お前も死んだ人と会いに来たか」「どういう状況だべ」て聞いたら、「手前に崖(がけ)があって、手前に柵があって上の方にお前の奥さんが現われっから」「話出来んべか」「ああ、はいつは分んね。出来っか出来ないか分んねげんども、会ってだけは来(く)るいがら、会ってござっしゃい」
 て聞いて、勇躍喜んでそこさ尋ねて行った。ほして行ってみたれば、どういう風な、年だけの痩せ型だけかの、どうだっけがのっていろいろくわしく聞いた。
「んでは間もなく出はっから」
 太鼓ドドドドーンと鳴らしたらば、さわさわていたけあ、浴衣着て、きれいな髪して、こっちの方向いてニコニコしたれば、やっぱり自分の女房だけと。「本当だ」ていうわけで、その男が狂ったようになって、誰も行かんね柵のりこえてその岩けつ登って行って、「おさき、おさき!」て言うけぁ、いきなりその女さ抱きついてしまったんだど。
「行(い)じゃって呉(け)ろ、ほだんどこで居ねで、家さ行(い)じゃって呉ろ。子どももお前ば待ってっし、早くおれと一緒に行(い)じゃって呉ろ」
 ぶったまげたのは、その女。そこでは銭取りのために、ああだけの、こうだけのて聞いては、はいつ見たような恰好して、そこの上をふわふわ歩かせて金とっていだんだけど。
 ところが、むっつり押えではぁ、何(なえ)たて離さね。むりむりほっから連(せ)て来て、その人と一緒になって、後は安楽に暮したはぁていう人いだっけど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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