69 大岡裁き ― 里子と母親 ―

 むかしむかし、子どもがふだ(多い)な時は、子どもの居ねどこに里子なて出したもんだど。
 ところがあるとこさ里子出したれば、ほの家では、慣(な)ついてはぁ、めんごくて返すの嫌(や)んだくなったんだど。んで、こっちでは約束の期限来たから返して呉(け)らっしゃい、いや、こいつは元からおらえんなだて、それまた喧嘩になった。ほうすっどやっぱりお奉行さまさ願い出たわけだ。そうすっどお奉行さま、瞑想して考えっだけぁ、
「そうか、よし分った。んだらば二人とも連(つ)っで直(なお)れ」
 そして、
「その子ども、右の手と左の手引張れ。引張って自分の方さ引寄せた方が自分の子だ。ええか、よういどんで引張りくらするんだ」
 ほうしたれば、ヤンサヤンサで二人引張った。子ども痛いもんだから、わっと泣いてしまった。したら、実の母はパッと離した。里親の方はぐっぐっ引張った。
 それを見た大岡越前守さま、
「待て、本当の親はこっちだ。わが子の痛っだいな分って、ほしてその骨肉の情あればこそ、相手にとられるて、自分の子どもの痛さにはかなわねと、こういう風な衝動に瞬間的にたよって離したんだ。お前は欲しいばっかりで無理無理引張った。お前の子どもでない、返せ」
 て、こういう風に言(や)っだんだど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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