61 人身御供

 むかしとんとんあったずま。
 新羅という国に李朝という、李王殿下という時代、そのころ、撞鐘を吹く商売人がいだったけど。高力(こうりき)志(し)というすばらしい撞鐘を吹く名人だったけど。そしてすでに一里四方、二里四方、三里四方という、鳴りひびく鐘造ったげんど、その李王殿下から十里四方、しかも二分以上余韻のたなびく鐘をつくって参れという厳しい命令さっだんだど。ところが十里四方ていうど目方も百貫も越さなくてなんね。そら鉄ばりでは遠くまで聞えない。いろいろ考えてみた。そして鉄の他、赤銅・真鍮・白銀・黄金、いろいろな金(かね)混ぜっどまぜるほど音が冴えてええ。こういうもんだ。
 ところが、はいつ炉さ入っで溶かして、そして仕上げんべと思って、型さ入っで出してみっど、いつでもボロボロになって、決して金が融合しない。困ったもんだ。ところが占師さ行って、聞いてみたれば、汚れを知らない乙女の血と肉が必要だ。そうすっど渾然一体となってそれが融合すると、こういう風に卦が出だんだど。ところがそこに十八才になるオンアイという娘がいだんだけど。で、毎日行って、
「今日も駄目だ、今日も失敗した」
 毎日毎日、痩せ細ってゆく父の顔を見っだ。ところが誰言うとなく十八才になるその娘のオンアイの血が必要なんだべなていう。そんな風な世間の噂、そのオンアイが聞いてきた。んだげんども、その高力志が、自分がたとえ鐘を作らんねくても、娘を犠牲にするのは是であるか否であるか、あるいは鐘造りの意地として、娘を犠牲にしても、するべきか非常に悩んでいだんだど。
 ほして、また溶鉱炉でとかして鐘を鋳(い)る準備をしたんだど。ところが、娘が決心を決めて、ほして書き置きして、真赤な金とかした中さとび込んで行ってしまったんだどはぁ。ゴットンゴットン煮えたぎって、ほして次の朝げになったれば、今までボロボロに分離しった金が渾然一体となった。その汚れのない若い血と肉と骨と、それが金全体さ磁石に鉄が吸い込まれるように、しっくりとなって、すばらしい鐘でき上ったんだど。ほいつまで知しゃね親父が、
「はて、不思議なこともあるもんだ。こだい立派に鐘が出来上ったっだ」
 と思っていたら、家の中さ書き置きがあるんだけど。
「先立つ不孝をお許し下さい。おとうさんの名誉のために鐘造りの意地のためにわたくしはあの世さ参ります」
 という書き置きおいではぁ、娘が犠牲になったんだけど。ところがその鐘、いよいよもって出来て、王様さ納め、撞いてみだれば、やっぱり十里四方以上聞えて、余韻が二分以上三分も続く。そしてその鳴る音が娘の名前のようになった。高というのは高力志の姓字で、娘はオンアイと名付った。撞くたびに、「コーオンアイ」ていう音が長く長く続いだんだけど。で、娘が親孝行して、そういう風な鐘が新羅の国に残ったという。ドンピンカラリン、スッカラリン。
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