50 弘法手拭

 むかしむかし、津軽の国さ、とってもネッピな(けちんぼ)侍いだったけど。ほの奥方、まだまだ旦那さ輪かけてネッピなんだけど。 ほして女中が正月餅搗いて餅いっぱい余ったことでもあるしなぁ、て考えていたどこさ、貧乏そうなお坊さんが来て、物貰いに来たんだけど。 んだから女中さんが可哀そうだと思って、七つ八つ紙さくるんで、そのお坊さんさ呉(け)でやったんだど。 ほうしたれば、お坊さんが、はいつ押しいただいて、二回も三回もお辞儀して行ったんだど。ところがそいつ勘定しったけずぁ、
「七つ、八つの餅、どこさやった、こりゃ」
 ほの女中さんがごしゃがっだんだど。
「いや、こういうわけで、お坊さんさ呉(け)でやった」

「とりかえして来(こ)い。今すぐ行って、とりかえして来(こ)い」
 ほうして仕方なくて、その女中さんが草履はいて、どんどん、どんどん走って行って、したれば村のはずれにまだいだっけど、 そのお坊さんが…。
「お坊さん、お坊さん、実はこういうわけで、かかはんに、ごしゃがっで、何とも仕様ないから、さっき上げた餅返してもらわんねべか」
 て言うたらば、こころよく返して呉(け)だんだど。
「ほうか、お前は大変心根のやさしい人だげんど、お前の旦那と奥さんが、つうとケチすぎる。あんでは世の中通らねぞ」
 て言うて、
「んでは、お前さ、こいつ上げっから…」
 て、手拭一本呉(け)でよこしたんだど。ほして、
「この手拭で顔拭(ふ)くど、お前がきれいな女になっから」
 て、呉(け)てよこした。ほしてせっせ、せっせとほの手拭で顔拭いたれば、見違えるように美しくなった。 まず口の格好といい、鼻・目の配り、ものすごい天女みたいになってしまったんだど。 はいつ見っだ奥方が、妬(しょね)んで、こそっと覗(のぞ)いてみたれば、一生懸命で、手拭で顔拭いっだんだど。
「ははぁ、あの手拭できれいになったな。ほんではあいつはきっと宝手拭だ。よし、いね時おれも一つ、あいつで顔拭いて見んなね」
 ていうわけで、無理矢理お手伝いさんば、おつかいにやって、ほして部屋さ入って行って、ほの手拭で顔拭いだんだど。 したらば何だか顔おかしいと思ったれば、だんだえ長くなって行って、馬面(づら)になったんだど。 ほして喋んべと思ったげんど、馬みたいになってしまってはぁ、ヒヒーン、ヒヒンなてしか言わんねんだけどはぁ。 歩く足首まで、パカラパカラ、パカラパカラて、馬の足音になったんだけど。んだから、あんまりネッピにさんねもんだぁて。 津軽あたりでは言うたもんだど。ドンピンカラリン、スッカラリン。
(集成「宝手拭」一九八A)
(集成「二反の白」四八五)
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