45 兄弟話

 むかしとんとんあったずま。
 ある村さブツて名付った少し足んねないだんだど。
 ところが寺子屋さも行かねで、毎日毎日、鳥せめの他能がないなだけど。ある日も、バカランて、鳥のワナさ鳥かかった。 行ってみたれば隣の鶏だけど。放してやってしまった。はいつ見た母親、
「御飯(おまま)も食いようないやつだ」
 て、ごしゃがっだんだど。
「はぁ、ほだわけだ。掛ったな放してやればうまくないわけだ」
 なていたれば、そこのおかちゃんが便所さ行ぐどて、間違ってそのバッタリさ引掛ってしまったんだど。 バダン。ほうすっど引掛ったもの、みなせめねど分んね(捕えないといけない)て聞いっだもんだから、何引掛ったかも、さり分かんねくてはぁ、 ぶっ叩いて、おかちゃんば殺してしまったんだどはぁ。
「いや、殺してしまったんでは仕様ない」
 兄弟衆だ来て、
「ほんではまずお寺さま頼んで来(こ)んなね、お前お寺さ行ってお寺さま頼んでこい」
 ところがお寺ていうな見たことないんだど。そのブツていう人ぁ。
「お寺ざぁ、なんたもの着ったもんだい」
「ありゃ、黒い衣着てんなだ」
「ああ、分った分った」
 走って行った。ところがお寺の門前に烏二匹いだっけ。
「お寺さま、お寺さま、おらえのおかちゃん逝くなったから、どうか来てお経上げて呉(け)らっしゃい」
 したれば、烏は「アホー、アホー」て飛んで行ってしまった。
「何ていだっけ、お寺さま、都合なんたけ」
 て聞いだれば、
「ん、アホー、アホーて飛んで行ったな」
「ばかやろう、そいつぁ烏ていうもんだ。烏さ頼んだって分るもんでない。ほの真黒でなくて、ところどころ白い紋ていうの入っているもんだ、ええか」
「ほうか、ほだべな、烏お経上げっざぁないと思った。よしよし分った」
 て行った。ところが丁度お寺さまの前まで行ったらば白黒のいだ。牛(べこ)がつながっていた。ほこさツカツカと行ったけぁ、頭下げて、
「お寺さま、お寺さま、何とか、こういうわけで、おらえのおかちゃん逝くなったから、来てお経上げて呉(け)らっしゃい」
 ほうしたれば、牛はメー、メーて言うた。「はぁ」て、ほうして帰って来た。
「何て言うた」「メーて言うた」
「この野郎、ほいつは牛だべな、角あっけべ」
「角あっけ」
「角ないのだ。ああ分んね野郎なもんだ。ほんでは仕方ない、おれ行って来るはぁ。ほだら、お前、ここさ元糀と米と合(あ)せっだから、かいつ、かましてろ。んだど、ほれ、おれお寺さん頼んで来っど、お寺さまさ飲ませる濁酒(どぶろく)だ、ええか」
「はい、かましてええなが」
 かましているうちに、ほの濁酒は湧いてきて、ブツブツ、ブツブツて湧いて来た。名前ブツて名付ったもんだから、「ハイハイ、ハイハイ」ていだ。なんぼおもっても湧く。
「ブツブツ、ブツブツ」
「ハイハイ、ハイったらな、こん畜生。ハイハイ、ハイハイ、こん畜生。なんぼハイて言うてもわからね」
 て言うど、短気起してはぁ、その甕ぶつ割ってしまったんだどはぁ。ほしてお寺さま一時に来て呉(け)るていうことで、その兄弟が帰ってきて見たれば、甕割っでだ。
「なんだ、甕割っだんだどこら」
「うん、おればブツブツて言うから、ハイて、なんぼ返事しても、からやかましいから、頭さ来たから、打(ぶ)ち割った」
「んでは仕方ない。となり酒屋だから、酒屋さ酒盗み行かんなねっだな。ええかんだら、おれ上から酒の樽、そおっと下さ降(お)とすから、お前下で受けとれ」
「うん、ええっだな。んだらええがんべ」
「ええか、やんぞ、ほらほら、やっから、おさえろよ、おさえたか」
「おさえた」
「間違いないか」
「間違いない」
 放したれば、ドシャンと音して、
「なんだ、倉さ誰か入った、行ってみろ」
 て、追(ぼ)わっだんだど。
「何だ、この野郎、尻押さえっだて、尻押えっだんだか」
「おさえっだ。ほりゃ、尻、爪の跡つくくらい」
 酒の尻おさえねで、自分の尻押さえっだなだけど。馬鹿ざぁなんぼ教えても、教えたてらんねんだど。ドンピンカラリン、スッカラリン。

(集成「法事の使」三三三)
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