42 巡査を馬鹿にした話

 荒砥の藤助兄ンにやの話。
 荷車につけて、よく長井さ桑三平とか小用達ししている人だった。その人は長井の町を通し歩くもんだから、長井の入口さ行って小便たっだと。そうすっど巡査にとがめらっで、警察さ呼ばらったと。警察さ行ったところが、また警察の中で小便出たくなったと。一計を案じて、そこさまた小便たっだと。そしたば、
「こんなとこさ小便たっで、何だ」
 と言わったと。そしたば、
「俺は病気持ちで、さあ出たくなったというと、立つも立たんねぐなるもんだから、わるいと思ったげんど、たっだどこだ」
 と、こう言うたと。
「はァ、そうか、先度(せんど)もそういうもんだったか」
「先度なも、向うさ行って便所借りて、たれんべと思ったげんども、たれらんねもんだから、道の傍さたっだんだ」
「ほんじゃ、そいつは罪はないのだな。そいつは病気のせいだな」
 と帰したと。
 それから、次に桑つけに行ったと。そして夜は提灯つけて歩かんなねがったと。無提灯で来たところが、向うから巡査が来た。そしてとがめらった。ところが、
「巡査さま。俺はそこまで点けて来たんだげども、石さ蹴つまづいて、その拍子に消えてしまったんだ。ほら、ローソクの芯がまだ熱い。巡査さま。見ておくやい」
 と、古ぼけた、ちびたローソク出したと。
「熱い」と突き出さっだもんだから、巡査は、
「ほう、そうか。熱いな、こりゃ」
 と言うたと。
「ほんじゃ、向うに店あっから、そこさ行って、点けて行けよ」
「はい」
 と言って、帰って来たと。
 二度巡査のどこ馬鹿にしたったと。
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(二) 目次へ