35 村正と正宗 

 まいど、村正の名刀と正宗の名刀ざァ、あったもんだ。そのうちで正宗派は正宗が日本一の刀鍛冶だ、片一方は村正が日本一だと論が始まったと。そん時徳川さまが二人ば、試して見ることにした。
「二人は立派な刀を打ってこい」
 と言うたから、立派な刀を打って来たと。そしてその川さ、刀二本を立てたと。そして上から、材木師が材木を木流ししたと。そしたところァ、村正にぶっつかると、すぐにその木は二つに割っで行ったり、横に切っで行ったり、ボェーッ・ボェーッと切れっかったと。そん時、
「村正は日本一だ、あの通り、あんな太い木がぶった切っで行くもの、あれくらいええ刀はない」
 と、弟子は言うたと。
 それから正宗の方さ木を流したと。そしたら正宗の刀さ、木が来たところァ、丁度三尺が五尺あたりまで来て、グラリとよけて、右さそれたり左さそれたり、さっぱり刀の刃さ障わんないで、ソロリソロリと流っで行ったと。
 そん時に、徳川さまはこう言うたと。
「武士というものは、いくさするためにあるんでない。いくさを起させないために置いておくのだ。刀だても抜かないでしまうごんだら、それ以上のことはないのだ。ぶっつかって切れるのより、それて行くくらいなのが日本一だ」
 と。正宗の名刀ざァ、んだから日本一だと。とーびんと。
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