30 岩内の地藏 

 そこは峠になっていて、峯に石の地藏が立っていたと。そしてある悪い者と大金持が道々一緒に行ったと。そして地藏さまさ行って二人話語り、ホラ吹きくらみたいに語っていたと。大金持も相当持ってたもんだから、
「俺は、これくらいの金、背負って行くとこだ」
 と、語ったと。そしたれば、悪い者はにわかに出来心して、
「この親父さえもぶち殺せば、その金をそっくり持って行かれる」
 と、こう思ったと。そして地藏の丁度前でその親父を殺してその金を盗ったと。そんで地藏さまどさ、こう言うたと。
「決して俺の今したことを、誰どさも…、地藏さまとか見てねのだから、地藏さま、誰さも教えないで呉(く)ろ」
 そん時、地藏さま、こう言ったと。
「いや、お前さえも言わないと、俺など石地藏だから決して言わない。もしお前が言うたごんだら言うとすぐにお前の生命がなくなんぞ」
 と、地藏さまが言うたと。そしてその場はすんで、二三年経ってから、またその悪い者がそこ通ったと。地藏さまどこで一服のみながら、おどけ心に、
「地藏さま、地藏さま、此処で三年前に金盗ったけなァ、俺ァまだ世間さは語ったことないげんども、なァ、地藏さまも語んまいな」
 と、こう言うたと。地藏さまは、
「俺は語んねげんども、お前語ったどれ、ほんじゃ、生命をとってやる」
 と、すぐに生命をとらっじゃったと。とーびんと。
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