24 斧で針 

 むかし、皇子さまが東北にこういう南部の恐山とか、出羽三山とか非常に有難い霊地がある。そこさ行って開け、と言わっで来たげんども、なかなか湯殿山・羽黒山あたり騒いでみたげんども、何処さどういうものを開山したらええか分んねがった。そんで何日も何日も探して歩いたげんど、尋(た)ねらんねがったと。そしたらば、向うの方に白い衣装で鬚ぼうぼうと生やしたお行さまみたいな人が岩の上にいたったと。そしてそれに近づいてみたところァ、何か砥ぎものをしったと。一生懸命で砥いっだと。
 次の日もまたそこさ行って見たところが、また同じものを砥いっだと。何日行っても同じだと。それからあんまり不思議だから、近よって聞いてみたところァ、
「俺はこうして山に居っけんども、さまざまなもの持っているげんども、針というものは一本も持たねなだ。んだもんだから、この数ある内の斧を砥いで針にすんべどて、俺は針拵えしったんだ」
 と言うたと。
「はァ、斧を砥いで針を…。それくらいの気根で、俺は霊地を尋ねたらば、霊山は探されんべ」
 とて、三山の霊地を探さんなねべとて、
「俺はこういう訳で来たんだげんど、探さんねくていたんだ。その話を聞いて感じていたとこだ」
 そしていたところァ、そのお行さまは、ポーッと消えてしまったと。
「いや、これは本当の霊地であって、仏である」
 と、感じて、三山の霊地を開いたけと。んだから、それくらい一生懸命になっど、何探さんねなんてないもんだと。
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