19 道心坊の話 

 道心坊が晩方来たと。
「今夜一晩、宿とらせてもらいたい」
「何もないげんども、お行様、おらえの家で泊っておくやい」
 そん時、親父はいなくて、ガガばっかりだったと。そして泊って、夜飯くって色々話かたったりしたらば、丁度隣の親父が来たったと。そして、
「お行様、お行様、お行様ざァ、世の中のことやさまざまな字など知ってるもんだ」
 と言うたらば、
「いや、俺はさっぱり世間話も知らないし、字も知らねし、何一つ書かんない。唯こうしてみんなからの貰い扶持で生きてるばりだ」
 と言うたと。そしたば隣の親父はその家のガガどさ、
「この道心坊、寝たらばどうだ」
 ということを火箸で灰さ書いたと。そいつ読まれるもんだから、道心坊は、
「ははァ、こいつはこのガガの友達男だな」
 と思ったと。そうすっど道心坊は、
「俺は昼の疲れで、くたびっでくたびっで仕様ないから、休ませておくやい」
 と寝てしまったけど。そしていたらば、家の親父が夜上りして来たと。そして家の親父も来たもんだから、道心坊も起きて来て、礼釈したと。
「お行様お行様、そうして世間歩くには、さまざまな話があんべな」
「ああ、大したこともないげんども、俺も丁度去年の今頃こういうことがあった」
「そいつはどういう事だったべ」
「可成りな家さ泊ったば、親父はいないでガガばりのところさ泊ったら、隣の親父みたいな来て、お行様字知ってたか、と聞くもんだから、俺は知らねと言うた。そしたらば、火箸で灰さ『この道心坊、寝たらばどうだ』と書いた。んだから、俺もくたびったことにした。早く寝せてもらった。そして寝せてもらったら、野郎べら、隠っでいたった。隣の親父は、ありだけ自分のこと語られっど思って固くなって、押入れの中にすくなんで聞いった。そしたところが、旦那よ、丁度こげなことされたのよ。ちょいら来て、自分の着った衣で、頭からベロッとかぶせて、耳ば手のひらで押して眼(まなぐ)をこうぎっちりと押えらったのよ。丁度こがえだった。そしてぎっちり抑えたとこで、ガガが、隣の親父早く出してやれと言うたと。そうすっど親父の耳も眼もぎっちり抑えてしまったんだから丈夫だと思って、隣の親父をそろっと出してやった。丁度こがえなことさっだことあったぜ」
 と、こう言うたと。
「ははァ」
 と、親父など途方にくれていたっけと。して無事に道心坊が救ってやったったと。どーびんと。
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