16 お釈迦さまの歌

 これはお釈迦さまのうんと苦しんだ歌だったと。摩利支天・吉祥天・帝釈天など、さまざまなお仏さまはお釈迦さまより前の仏さまだったと。そいつについて修行していた頃、
  いろはにほへどちりぬるを
    わかよたれそつねならむ
 ということまでは分ったげんど、後の文句はなじょしても分んねもんだから、岩の上に鉦叩いて念仏申して考えったと。そしたらすばらしい大蛇が来て、そして、
「何しった?」
 と言うもんだから、
「こういう訳だ」
と、大蛇さ言うたと。ほんで、
「後の文句、俺が教えてやっから、その文句言い終ったらすぐ呑んでしまうぞ、呑まっでもええごんだら教える」
 と言うたと。そしたば、
「俺はこの程一生懸命になったんだから、生命捨てたって、これ憶えさえもすっこんだらば、俺の本願だから、あまりええ」
 と言うたと。そしたれば、
  うゐのおくやま けふこえて
    あさきゆめみし ゑひもせす
 と、こう言うたと。そいつ聞いたと。そしたらば、呑むところでない、昔のお仏さまいっぱいいて、そいつは皆、頭さ天蓋もって、慈光さして、仏さまになって、
「今日から、俺の巻物呉れたんだから、俺の弟子になれ」
と言わっだったと。修行時代にそういうこともあったと。
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