15 釈迦と小僧

(一)地蔵・極楽めぐり
 お釈迦さまが休み日でもあったんだが、なんだか、小僧っ子二人三人つれて、
「今日は地獄と極楽見せっから」
 と、見せに行った。そしたら山越え谷越え、ずっと行ったところが、丁度道の傍に綺麗な水があったと。そして見たところが、何かキリギリスとか鈴虫とか、虫の音がすると。そして近寄ったところが、シャレコーベが一つある。そしてシャレコーベの上をずっと見たところが、すばらしい松茸の、まだ開かないのと、八寸もある紫アケビが頭の上に、丁度その傍らに大栗が、こがえのばっかりゴロゴロとある。そして鈴虫・まつむし・くつわむし、などが鳴いていたと。そして、
「こいつは何(なえ)だべ、和尚さま」
 と言うたら、
「こいつは、水呑みたくなったとき、この水呑んで、そして腹減ったとき、このアケビを食ったり、また虫の音でも聞いている。こいつは生きった時ええことした人であったなァ」
 と、教えらっだと。
「ははァ、生きてるうちにええことすれば、死んでからこういう風にしてもらえるんだな、和尚さま」
 と、お釈迦さまさ言うたら、
「ほだほだ、ほだから決してわるいことざァさんねもんだ」
 と、感心しったと。それからまた、ずっと行ったところが、大きな野良犬、そいつァ、泥まびれになったまま、そっちにぶん投げ、こっちにぶん投げして、足で蹴上げたりしったと。そしたば、そいつァ何か悲しい叫び声で泣いていたったと。そんで小僧がお釈迦さまに聞いたと。
「これはな、生きっだうちに何度もわるいことばかりして、俺さえもええど、人などどうでも構わね、なんてわるいことしったもんだから、死んでからそのわるい人は皆、野良犬や狼になって、せめるのだ。そいつは泥まびれの泥々になって、食いもの一つ、飲みもの一つない」
「……」
「んだから、生きっだ内は決してわるいことはさんねもんだ」
 と教えらったと。どーびんと。

(二)人のふり見て
 お釈迦さまの弟子に、顔面(つら)に大きなホソビ、ぽつっとある小僧っ子がいたったと。そうすっど小僧っ子仲間が馬鹿にして顔の真中に、あがえなホソビある。めんくさいごんだの、汚ないごんだのと、さんざん馬鹿にしたと。一番馬鹿にしたのを、お釈迦さまがちゃんと見っだったと。そして、
「お前は、大分顔面さホソビあっどて馬鹿にしてる、あんだが裸になって後向きになって、皆に見てもらえ」
 と言わっだと。そうすっどお釈迦さまに言わっだから、小僧っ子が裸になって後向きになってみっど、背中にこがえな大きいアザあったと。ほだから、自分の背中ざ見えないもんだ。人の顔面ざァ見えるもんだ。人のふり見て吾ふり直せというのは、そっから起ったのだと。
>>とーびんと 工藤六兵衛翁昔話(二) 目次へ