9 お蚕(こ)さま

 唐天竺の王様につかえっだ人がいたったと。その王様が馬一匹飼っていたったと。そしていたところァ、その家に娘一人いたったと。その娘も馬は好きで、馬は好きで、毎日毎日馬の手入れ、馬の世話をする。そして馬もその娘を好きになって、馬はこう言うたと。
「なんぼ、お前は俺どこ好きで、俺はお前どこ好きでも、人と馬は夫婦にはならんねし、俺は一生夫婦になった積りで、俺はこれで死ぬからはァ、俺の毛あるのを、お前は蚕も好きだし、蚕になって生れ変るから、蚕を可愛がってけろ」
 と、死んでしまったと。
 そして死んで二日三日したら、落ちった毛がありったけ蚕になっていたったと。
 そして死ぬとき、言うには、
「たしかに俺の生れ変りだということは、蚕の背中さ、爪の跡二つずつ必ず付くから、そいつ付いていないのなら、俺の生れ変りではないし、付いっだなは、俺の生れ変りだから、その蚕育ててそいつで糸とって、一生あんだの肌さつけてもらいたい」
 と言ったと。そして死んでしまったと。
 そして見たところァ、蚕の背中さ、みな付いている。そいつが蚕の始まりだと。とーびんと。
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