5 長い名

(一)
 むかしあったけどな。
 初子に男の赤ン坊出たけと。めんごいから名前の付けようを、和尚さ頼んだと。和尚さまも、さまざま考えて、長生きして金の貯まるととさいお経から、いっぱい選(え)って、十(とお)ばかり書いて、このうち、どれでもええと言うたけと。こがえにととさいなだもの、ぺろっと付けたらええがべな、と、ありったけ付けたと。
〈寿限無寿限無、五劫の摺り切り海砂利、水魚の水行末、雲来末風来末、食う寝るところに住むところ、ヤブラコウジのブラコウジ、パイポパイポ、パイポのシュウリンガンのシュウリンガン、グウリンダイのポンポコピーのポンポコナの長久命の長助〉
 そのおぼこァ、二つになる時、家の前の深い井戸さ落ちて行ったけと。みんなに助けてもらうべと思って、おぼこの名前言うているうちに、あんまり長いもんだから、おぼこは死んでしまったけと。んだから、あんまり長い名前は悪いもんだと。とーびんと。

(二)
 むかしあったけど。
 越後の山の中に、うんと長い名前の女いたっけと。
〈いろはにほへとちりぬるおわかよたれそつねならむうゐのをくやまけふこえてあさきゆめみしゑひもせす〉
 女ぶりもええし、賢こくて、気立てもええし、仕事もしやしやとしっかったほで、隣の村さ貰わっじゃと。御祝儀の座敷で、みな名のり合いしたと。むかさり(嫁)のを、仲人はしたと。仲人うんともじくり(吃り)で、むかさりの名前言うに一時間ばかりかかったと。そしたば、秋遅くだほでに、酒は冷たくなる、吸いものは凍みだったと。
 ほたもんだから、名前ばりでみんなに嫌わって、次の日ぼださったと。あんまり長い名前をつけるもんでないと。とんびんと。

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