4 豆むかし

 お姑が一人いたったと。そして一人息子さ、嫁をとる前に、来年の春に味噌煮んなねからとて、どうにかこうにか半タラばりの豆をとって置いったと。
 嫁をとったところが、嫁は豆炒り好きで、夜、夜わりをして寝っとき、少し(ちいと)でも炒って食わねじど、眠らんね嫁だったと。そしてそこに豆半タラばりあるもんだから、お姑はいつでも早く寝るんだし、そっと豆をとって毎日カラカラ炒って食ったと。
 お正月になって、お姑が見たところ半分ばり食ったってな。
「こう食っては、来春(らいはる)味噌煮んのなくなってしまう。困ったもんだ」
 と、正月礼に行った時、そのカマスを自分の寝っだ頭の上さ吊しておいったと。そして嫁が来てみたところァ、そこに豆はないんだし、なじょな訳だべなと思っていたと。そしてそっちこっち掃除すっとき見たば、お姑オッカの丁度頭の上に吊してあったと。お姑は早く寝んべし、眠ってしまうと、グウグウといびきもするんだし、眠ったものと見て、踏台持って来て、お姑の枕元さ置いてそいつさ上って、豆をそっと取ったと。そして蒲団の上なもんだから、踏台はガクガクッと行ってバッタリむぐっでしまったと。そしたば、その嫁はお姑の顔面(つら)さ、ビターッと落っできたと。そしたらば、嫁は逃げて行ったし、お姑は魂消て、いっぱいの豆、こぼしてしまったと。
 豆の化物ざァ聞いたことある。豆の化物ざァ、毛もくちゃれで、こくさい獣だ。だっでえもんだと思ったと。
 明けたから、嫁も昨夜あんなことしては、俺はぼだされるに決っている。んだたて、起きっときは起きてお飯炊かんなねから、炊いてたと。そしたらお姑が何時にもなく起きて来たと。そしてちゃんと膝まいて嫁を呼ばったと。
「ゆんべな、な。俺は夢話というのだが、化物話をあんだに語る。俺はお前があんまり豆を食うと、味噌煮んべがないもんだから、根性わるいと思ったげんど、俺は頭の上さ豆吊るしった。そしたば化物ァ来て、俺の顔面(つら)さビッタリ落った。いや、毛もくちゃれな、こんくさいものが落っできて、本当にひどいがった。俺は二度とわるい心は出さないようにすっから、豆をまた元のところさ持って行って、食(く)たいだけ炒って食え」
と、こう言うたと。どーびんと。
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