1 くいごこむかし

 むかしあったけと。
 じんつぁ山さ柴切りに、ばんさ川さ洗濯に行ったけと。そしてパタパタとうち綿を叩いたり、洗濯しったところァ、上の方から赤い小箱と白い小箱流っで来たっけと。そして、ばんさ、
「赤い小箱こっちゃ来い、白い小箱そっちゃ行け」
 と、言わっだもんだから、赤い小箱は、ばんさんどこさ流って来たっけと。そんで白い小箱は泣きなき、また川を上さ登って行ったと。そして赤い小箱を拾って来て、ばんさ、戸棚さ入っでだっけと。そして、じんつぁ来てから、
「俺ァ川さ行ったらば、赤い小箱と白い小箱流っで来たな、赤い小箱とって来た。その中さ入ってな、見せっか」
 なんて、見せたと。そしたば、赤い小箱の蓋とったところァ、めんごいくいごこが生(うま)っで来たと。そして、
「はあ、こりゃめんごいくいごこだから」
 なんて、頭撫でなでじんつぁ抱いたりして、魚(とと)など買って来て、小豆飯など炊いて、毎日食(か)せたと。うんと大きくなって、今度は、
「じんつぁ、ばんさ」
「なえだことや」
 と言うたば、
「俺と山さ金掘り行かねか」
 と言う。
「金など、あんまいちゃえ、くいごこ」
 と言うたらば、
「俺はあっどこ知った」
 そしたらば、じんつぁ、さまざまな鍬など唐鍬など、カマスなど探(た)ねて来たと。じんつぁそいつを背負って行くべと思ったら、
「そいつ、俺ァ背負って行く、じんつぁ」
「にしゃ(お前)、そがえなもの背負ったら、とってもあの山さ行かんねごで」
と言うたら、
 〝ええから付けろ クェンクェンクェン〟
そしてせっかく言うもんだから、カマスと唐鍬だけ付けたと。そしたらば、
 〝じんつぁものれ、クェンクェンクェン〟
と言う。
「道具だけでも大したもんだ。俺などのったらすぐに、ひっつぶれっこで、俺は歩いて行かれっから、ええ、くいごこ」
と言うたらば、
 〝ええからのれ、クェンクェンクェン〟
と言うたと。そんで、じんつぁもそいつさのって、のったらば、
 〝ばんさものれ、クェンクェンクェン〟
と言うもんだから、
「ほんがえ、二人ものらんねごで」
 〝ええからのれ、クェンクェンクェン〟
と言うたと。そして二人ァのって、野越え山越え谷越えして、山さ行ったと。そしたらば、じんつぁとばんさが下りて、鍬もって掘ったところがじじぁ前さ金。ばばぁ前さも金。ザクリモグリと出たけと。そしてじんつぁとばんさ、カマスさそいつ皆入っで背負って来たと。
夜家さ来ていたとこさ、隣の火貰いばんさ来て、
「ほう。こっちの家ァ福(ふく)しいこと」
「ほだし、くいごこのおかげよ、し」
「そのくいごこ貸して呉ろ」
と言うたと。
「いや、くいごこだって、他人の家さ行くの恥(しょう)しいがんべし、こいつは貸さんね」
んだげんど、無理無理貸せ貸せとつれて行ったと。嫌(やん)だくて、前足つっぱって、後さ引込む恰好したの、無理無理縄つけて引張って行ったと。そして付けろとも言わねな、鍬を付けたり、カマスを付けたり、のれとも言わねな、
「隣のじじ、ばばのったから、おらだものってええがんべ、ばば」
と、じんつぁものって、ばんさものって、尻叩き叩き行ったと。そしたら、いもりなど蛇などびた糞などばり出て、さっぱり銭など出なかったと。
「かいっつけな、隣のじじなど嘘ばっかりつかして、殺して行くべはァ」
と、たっぺで頭二つ叩いたら、コロッと死んだけと。そして死んだ墓拵って、松の木一本植えて来たったと。
そして来たげんども、何時まで待ってもくいごこ持って来ないので、そのばんさも、
「なじょだべ」
と、行ったら、
「あっけな、くいごこなんて嘘ばり語って、びた糞など、蛇・いもりなどばり出て、何も出なかった。ごっしゃげたから、じじと二人で殺して、あそこどこさ埋めて来たはァ。墓の上さ松の木も植えて来たさ」
「ほんじゃ、困ったことさっじゃもんだ」
と、ばばは泣きなき来て、じんつぁどさそいつ教えたと。そしたら、
「仕方ないから、んじゃ、墓詣りに行って見っか」
なんて、山(な)刀(た)や鋸など持って行ったと。行ったば、その松の木は太(ふ)っとくなって、太(ふ)っとくなって、こんがえ太っとくなってたと。そいつをじんつぁとばんさ切って来て、テンコ・テンコ・テンコと、何日(いつか)もさっかもかかって臼拵えたと。そしてええ臼できたもの、半タラも搗かれんべと、半タラばかり蒸(ふ)かして搗いたと。そうして餅は搗ける頃だと思ったらば、大判小判が臼から、バンバンと飛上ったけと。そして餅ではなく、皆大判小判になったったと。そして銭並べったどこさ、また隣の火もらいばんさ来たっけと。
「はいっと、今日(こんにち)わ、こっちの家は大金、福しくなったもんだなァ」
「ほだし、こういう訳で、あんだの家で植えた松の木で、臼拵って餅搗いたば、餅でなくて皆大判小判になったことだごで」
「そんじゃ、そいつ、俺さ貸して呉(く)ろ」
「貸さんね」
 と言うげんども、みりみり、じじまで呼ばって二人で持って行ったと。そして隣で搗いたところァ、また、びた糞などばっかり出来て、さっぱり金が出来ね。餅も食(か)んね。皆びた糞になったと。そしたら、ごしゃくってじじとばばは、斧もってきて、皆割っこして焚いてしまったと。
 そうすっど、何時までも臼持って来ねもんだから、また臼とりに行ったと。そしたば、
「はっつけな、あんだの家では小判でるなんて嘘ばり語って、おらえの家では、半タラ搗いたら、餅ではなく、皆びた糞になって、この通りびた糞家の前さ投げったから、見て呉(け)れやれ。臼割っこして、焚いてしまったはァ」
「ははァ、困ったことされた。なんぼでも灰(あく)でもあっこんだら灰でも貰って行くべ」
なんて、灰もらって泣く泣く家さ帰ったと。そしてじじどこに話したと。そしたば、
「おらえどこの丁度上には、この前まで咲いったけ枯れてしまった桜の木、太いのあっから、あいつさでも行って、かまわず花咲かせでもしてみっか」
と、持って行った。そうして途中まで行ったら大風吹いて来たと。そうしたらば、灰が少し吹っ飛んで枯れた桜の木さひっついたと。そしたらぺろっと花になったと。それから今度は、
  あやはチュウチュウ 黄金(こがね)ザラザラ
  チチンポン パラリーン
と言って、灰振ったところが、咲いた咲いた、てんまる桜、しだって落ちるほど咲いたと。そしたら、向うから家来いっぱいつれて、馬さのった殿様来たったと。そして、
「こらこら、じんつぁ、何しった」
「花咲かせしったどこだ」
「ははァ、見事だ、みごとだ。ほんじゃ、もう一ぺん咲かせてみろ」
 と言うので、
  あやはチュウチュウ 黄金ザラザラ
  チチンポン パラリーン
と振ったら、いやいや、すばらしく咲いたと。そしたば、殿様、酒もって来たのを、瓢箪からあけて、飲んで踊って、
「じんつぁ、じんつぁ、あんまり上手に咲かせたから、御褒美だら何でも欲しいもの呉れる」
 と、御褒美くれたようとして、
「何、御褒美がええ」
「何もいらない、年寄りだから……」
 殿様は無理無理くれると言うと。
「重い篭ええか軽い篭ええか、ええのとれ」
 と言わっだのを、
「俺は年寄りだから、軽いな、なるべく軽いの呉(け)ろ」
 と言うて、帰って開けてみたら、みな銭だったと。そこさ、また隣のばさま来て、
「はいっと、今日(こんにち)わっし、こっちの家は福しいこと」
「ほだず、あんだ家から貰って来た灰で花咲かせて、殿様から御褒美もらって来た」
「ほんじゃ、おらえのじじもやらんなね」
 なんて、家さ行ったと。灰はいっぱいあっからと、じじさ話して、花咲かせにやったと。じじは試しに桜の木さやってみたと。
  あやはチュウチュウ 黄金ザラザラ
  チチンポン パラリーン
 と、「リーン」に力入れっど咲くかどて、うんと力入っでやったので、屁までむぐったったと。そしたば、殿様がまた来て、
「じじ、じじ、花咲かせしったか」
「うん」
 じじは花咲かせで御褒美もらうつもりで、うんと灰をいっぱい掴(つか)んで、
  あやはチュウチュウ 黄金ザラザラ
  チチンポン パラリーン
「りーん」さあんまり力入っだもんだから、すばらしく大きい屁たっだと。そしてその屁で灰は吹っとんで、殿様の目(まなぐ)さ屁臭い灰は、いっぱい入ったと。こんでは酒飲みも踊りもできない。唯、目すこぐる、泣きこぼして殿様はいたったと。そんでも、
「何、御褒美ええ」
 と言ったと。そして重い篭と軽い篭あると言うたらば、
「俺は年寄ったげんど、体はこの通りだし、なるべくは重い方がええ」
 そして、重たい方もらって途中まで来て、
「こりゃ、重たいから確かにええものあるべとて、隣の何倍とええもの入っていたべなァ」
 と、見たくて見たくて途中で開けてみたところが、亀蜂にスガリに、蛇に、皆出はって、じじ頭刺すやら、喰っ付くやら、血だら真赤になって、じじは夜上りしたと。ばばはじじがあんまり来ないもんだから、雪隠(せっちん)の上さあがって、ヘラで尻(けつ)叩き叩き、じじ早く来ればええなァと、待っていたったと。そいつは真赤ななりして来る。
「いや、じじ、ええ衣裳もらって帰って来たもんだ」
 と思って喜んで喜んでいたところァ、丁度家の前さ来たところァ、皆傷だらけで血だら真赤で赤いなだと。ばば魂消(たまげ)て、雪隠からかっ転んで落ちて、ばばも死んだったと。ばば死んだの見て、じじ魂消て、じじも死んだと。
 んだから意地のわるいことざァ、さんねもんだっけどなァ。
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