55 杉沢のびったら松

 まいど、直江山城守は家来いっぱいつれて、自分の領地廻りに来たったと。そしたら、そのとき田植えの真盛りだったと。そして直江山城守は、田植衆さ、
「おいおい、百姓。この松はびったらこくなっていっじだ、土さ這って、這え松のようになっているっだ、何年ぐらいになる」
 そんとき、杉沢あたりの物識り権作は、
「この松は、丁度千八年であります」
 と言うたと。
「ほう、お前はよく分るな」
「いや、松の木は千年経つと高い松でも枝がだんだん延びて下がって、土さつくもんだ。土さついてから八年目だから、丁度千八年だ」
 と、こう言った。
「よく、お前は物識りで知ったな。お前は一日(ひして)田植そうして、している内、なんぼ株くらい植えられるもんだ」
 と、聞いた。そうすっど、
「さぁ?」
 と、このじんつぁも、ちょっと当惑したったと。そして考えつけたのは、
「ほんじゃ、お殿様、お前は四本の足の馬さのって、一(ひ)日(して)歩くっだ。馬の足あごの数は何んぼだべっし」
 これには何とも仕様なくって、
「ああ、そうか」
 と言うて、そこを通り抜けだったと。やっぱりトンチのええものには敵わねもんだ。
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