52 弱たれ侍

 むかし、侍が化物の百物語を廻り番コにしたと。廻り終りに行った人は新しい墓場さ行って、杭を打って来っこととしたと。
 そんで弱たれ侍さ、番長が当ったと。そして仕方ないから、弱たれだげんど、武士なんだから刀さして行ったと。そして墓場さ行って、杭を打つとき、自分の袴の裾さ杭打ってやったと。段々打って段々袴引張られる。
「いや、死人に俺ァ引張られっど思って……」
 青ざめてそこから逃げて来たと。そんで、来る途中、化物が追掛けて来て、そいつは南瓜棚、夕顔棚などくぐったもんだから、南瓜だの夕顔だのみな化物に見えて、刀で皆ぶった切ったと。
 そんで来たところが、
「いや、大事にしったな、干瓢こさうべと思ってた夕顔みな切らっだ。寒(かん)の内食うべと思うな南瓜みな切らっだ。困ったもんだ」
 と言わっで、そいつはたんとせめらったと。それから『弱たれ侍』と名付(つ)けらたと。
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