49 お仁王さま

 まいど、日本にはお仁王さまがいたったと。そんで、
「俺ぐらい偉いものは世の中にいない」
 と、自慢しったと。そしたれば、お観音さまは言うたと。
「仁王などよりまだまだ偉いなんつァ、いないなんてないから、唐さ行ってみろ、唐には我王さまというのがいたから、唐に行ってみろ」
 と言わっだもんだから、唐さ渡ったと。ところが、その家を尋ねて行ったところが、すばらしい剛気なばさまがいた。そんで、我王さまの家、ここらであんめえかと聞いたところが、
「おらの息子は我王という」
 そして見たところァ、囲炉裡の火箸は金(かな)テコみたいに太いのだったと。
「こいつは何しんのだ」
 と、聞いたところが、
「おらえの息子は煙草のむとき、こいつで火はさんで、すんなよ」
 と言わったと。それから外さ出てみたところが、大わらじ、半分ばり切ったの下がっている。
「こいつ、何しんなだ」
「おらえの我王は毎日山さ行くとき履いて行くのだ」
 と言わっだ。そして昼間頃なもんだから、
「御飯、あがれ」
 と、出さっだと。こがえに大きいお椀とお膳出して来たと。
「こいつは、おらえの我王が毎日食ってる膳椀だ。お前の少し小振(こぶり)なだげんど、こいつで上がれ」
 と言わったと。いやいや、この火箸見て、お椀見て、ワラジ見て、とてもこんじゃ生命からがらだと思って、そっからわらわらと嘘語って出はったと。そこさ我王が昼上りして来たと。
「今日、誰か来ねがったか」
「こういう者が日本から来たっけ」
「ほんじゃれば、そいつさ俺ァ追掛けて、一つ勝負さんなね」
 と、追掛けだったと。そうすっど、仁王が何とも仕様ないんだし、見たところ素晴らしいお堂が立っていたと。そこさ行って見たところ、お観音さまだったと。
「いやいや、こういう訳だ。生命だけ助けろ」
 と言うたところが、
「ほだべァ、日本のお観音さまにも、あんだ教えらっで来たべ。あんだばり世界一ではないんだ。んでは仕方ないごで。助けて呉(け)んなねべ。その代り、一生何代も何代も俺の錠口に立って門番しろ」
「あまりええどこでない。そんではどうか、生命だけ助けておくやい」
 と言わっで、お観音さまに助けらったと。んだからお観音さまの門前さは、お仁王さまみな立っていんなだと。とーびんと。
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