45 算盤の先生

 徳川さまの家来に算盤の先生が二人いたったと。そんでどっちが先生だと、先生争いをよくしたと。徳川さまは、
「ほんじゃらば、俺が試してやる」
 二人、前さ置いて、徳川さま、
「十を二で割って、なんぼになる」
 と言うたところが、一人の人は、さっぱりおかないで、
「そいつは、五に決まっている」
 そいつを言ってから、別の先生は、
「二・一てんさくの五」
 と言っておいたと。
「なんだ貴様、十を二で割るのを、算盤たてていんなねのか」
 と、馬鹿にしたと。そしたら徳川さまは笑って、
「ほんじゃれば、おらえで酒をちぇっちぇっと使うその酒の足し算をしてみろ」
 と、
「一升一杯、半こ、四半こ、八半こ」
 と言わっだって。今度は一杯半こ、四半こ、八半こでは何がなんだか分んねくて、とうとう算盤使ってしまったと。
「お前は算盤の先生ではない、こっちの方は十を二で割るんだって算盤使うのは、本当の先生だ」
 と言わっだと。なんでも物事というものは、そういう風に簡単だからって、あちこちして、むずかしいといって出来ないようなごんでは、馬鹿じだ。と徳川さまにおんつぁれだと。
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