30 水の種

 まいど、柏倉門伝あたりというのは、ありったけ田が干(ひ)って旱魃になっど困るもんだから、皆困っていだったと。そんで柏倉村に与左衛門という人がいたったと。
 あるとき、町さ買物に出掛けたと。そして行ったところァ、丁度橋の傍まで行ったらば白い蛇一匹、ガキベラ大勢(たいぜい)でせめて、まだ死ぬか生きっかだったと。そんで与左衛門が、
「あんまり可哀そうだ」
 と思って、白い蛇なもんだから珍らしくて、
「俺、銭呉(け)っから、そいつ売ってけろはァ」
 と、ガキベラさ言って、と、ガキベラは銭なもんだから、すぐに承知して売って呉(け)たと。そして与左衛門は銭ありだけ無くなったもんだから、買物さんねんだし、家さもどって来たと。そしてばさまは、
「××買って来たか」
 と言うたらば、
「いやいや、今日はとんでもないとこさ、ぶっつかって、買わないで来たとこだ。そんで白い蛇一匹買って来た」
 ばさまも珍らしいもんだから、何食うべ彼(か)に食うべと餌を与えたと。そしたらば、ばばもじじも同じ夢見たったと。そんで箱根の権現様には『水の種』ざぁある。その水の種を蒔くと沼もでき、堰もでき、川もできして、水の不自由はないというお託宣みたいな夢神のおつげがあったと。朝起きてみたれば、
「俺、こげな夢みたげど…」
 と言うと、じさまも、
「お前(にしゃ)も見たか、俺も同じような夢見たず、まずそんじゃ、箱根の権現様さ行って水の種を貰って来て蒔いてみんべ」
 と言うことになって、それから箱根の権現様さ行って水の種を貰って来た。長い道中であるもんだから、丁度畑谷あたりまで来て、
「中山も越えたし、こりゃ、家さ行って休まれっから」
 と、思って一服つけっど思って、ヒョウタンさ入っで来た水の種を枕にして昼眠したと。そしたらば自分が身動きするたんびに、フクベンがはたがえって、ぺろっとこぼれてしまったと。そして一杯こぼった所さ大きい沼、少し(ちいと)こぼった所さ小さい沼でる。イロハ沼・大沼から四十八も、大小さまざまの沼ができたんだと。
 それから水不足ざァさっぱりないんだと。とーびんと。
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