5 猿と蛙(びっき)

 山の中に猿一匹住んでいだったと。あまり天気ええもんだから、里さ遊びに行ってみようと思って、山から降りて来たと。そうしたところ、何処の家でもペタペタと餅搗きしったと。
 ほんで、何とかしてあの餅食いたいもんだと思って考えた末、ずっと廻って井戸端さ行ってみたところ、蛙が一匹いたったと。
「蛙(びっき)々、餅食いたくないか」
「餅など食いたいげんど、なじょして食うなだこと」
「雑作ない。俺の言うことさえも聞くと、すぐ食せっから」
「なじょすっこと、ええごと」
 と言うたれば、
「ここの中さ、ジャポンと入って、ホガホガ啼け」
「ほう、雑作ないこと。すんべ」
 というわけで、高いとこからジャポンと入ってホガホガと啼いたってよ。そうすっど、餅搗きしった人は、子供が井戸さ入ったんだかと思って、みな集まって来たと。そして来て見たげんど、蛙一匹いたばりで格別なこともない。
「何だか騙さったか」
 と思っていたと。そのうちに猿が留守の家さ入って、餅を臼がらみかっさらって(盗んで)、山さグングン持って行ったと。そして自分ばり食(く)ったそうだ。そうすっど、蛙も大体ええ頃だと思ってビタリビタリと山さ行って見たところが、猿は一生懸命になって、むしっては食い、むしっては食いしったと。そんで、
「猿々、さっきの約束通り、俺どさも少し分けて呉ろ」
 と言うたれば、
「あっげな赤子の真似したばりなの、もったいなくて呉(く)れらんね」
「そげなこと言うて貰ってはなんね。あんだ、赤子の真似すっど食(か)せると言うたんだもの、食せて貰わんなね」
 と、なんぼ願っても、猿は聞かねごんだずも。そして猿はとうとう、
「ほんじゃ、今一度仕事してからだと、食(か)せる」
「なにすっどええのや」
「ここから、ゴロゴロと餅転ばしてやって、一番早く追い付いた人が餅食べることだ」
 何と言うたって、猿には負けっど言うげんどもそうしないとさっぱり食(か)んねんだし、蛙も、
「そんじゃ、ええがんべ」
 と、ゴロゴロ転ばしてやったと。そしたら、猿が早いもんだから、ピョンピョン跳ねて下さ行ったと。そうして見たところ、餅は皆はじけてしまって、小さくなって、土なのばり付いて食(か)んねぐなっていたと。そして蛙も追掛けて行かねと食(か)んねんだし、後からノタリノタリと追掛けて行ったところが、笹葉さ餅喰っついていたり、木の枝さ餅喰っついていたりして、少しずつ集めて食ってるうちに満腹になったけと。そんであんまり弱い者を騙したりするもんでない。
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