1 猿蟹合戦

 どんとむかしあったけどな。
 蟹ァ一匹いたったと。雨降った日に街道さ出て、今日は遊ぶべと思って、遊びに行ったと。そしたば、ヤキメシを一つ拾ったと。
「これァ素晴らしいもの拾った」
 と、いるうち、雨も晴れてしまったと。そしたれば、向うから猿ァ来たと。猿は蟹がヤキメシ、こがえに大きいな持(たが)っていたもんだから、なじょかして食いたくていたところが、拍子よく、ひょいと道の傍に柿の種子一つ落ちていたと。猿は考えて、
「なじょして、ヤキメシを取って呉(け)たらええべ」
 とて、考えたと。そして、
「柿というものは、蒔いておくと、一年のうちにおがって、ヤキメシより大きい柿ばり一杯なるもんだ。んだから俺と取り換えねが……」
 と言うたと。そうすっど蟹は、
「そんがえ大きいの実(な)るんだら、あまりええがんべ」
 と、正直なもんだから取り換えたと。猿は、
「これは丸儲けした」
 と、ヤキメシを食ってしまったと。
 蟹は柿の種子を蒔いて、毎日手入れして、朝げには水掛け、天気のあまり暑いときは日陰を作ったり、少し(ちいと)寒いときには温(あた)かいようにしておがしたと。そして、
「早く芽を出さねど、鋏で切ってけんぞ」
 芽が出ると、
「わらわら枝生えて、花咲かねと、切ってしまうぞ」
 と言うたと。蟹は毎日大きな鋏を柿の木さ見せったと。柿の木はその鋏恐(おっか)ないもんだから、わらわら実(な)ったと。実(な)ったげんど、蟹は木さ登らんねもんだし、なじょして?(も)いだらええかどていたら、猿は賢こくて、
「大抵、あの蟹のことだから、うんと手入れええから、実(な)った頃だ」
 とて、遊びに来たと。
「なじょだ、蟹。俺ァ言う通りだ。んねが」
「お猿さんの言う通りだ。この通り実(な)ったげんど俺ァ木さ登らんねごんだ。ほんで風でも吹いて来れば俺も食(か)れると思って待ってだげんど、風も吹かねもんだし……」
 そうすっど、猿ァ、
「俺は木登りでは世界一達者なもんだ。俺ァ?(も)いで呉(く)れっか」
 猿はわらわら木さ登って行って、?いで食って「うまい」と自分ばり木の上で食って、
「お猿さん、俺さも少し(ちいと)?いで呉(け)ろ」
 と、蟹が言うと、猿は渋いのを少し齧ったばりで、蟹の背中さ思い切りぶっつけたと。蟹ァ、食ってみると、渋いんだし、
「こげな渋いなでは、俺ァ食(か)んね、もっと甘(あまご)いの?いで呉(け)ろ」
 と言うたと。猿ァその次?いだら甘いがったと。すると、そいつ、猿がぺろっと食ってしまって、その次?いだの、また渋いがったと。そうすっど猿はまた蟹の背中さぶっつけたもんだから、蟹はひっ潰れるほど背中痛くしたと。
 猿ァ食(か)れんのを、ぺろっと食ってしまって、クンクンと家さ行ってしまったと。蟹が泣いっだどさ、昆布が来て、
「蟹、何泣いっだ?」
「こういうわけで。猿から渋い柿ぶっつけらっで泣いっだ」
 と言うと、そこさ臼がゴロゴロと転んで来て、
「ほんじゃ、俺も敵(かたき)とって呉れる」
 そこさ、亀蜂もブンブンと来た。それから蟹も来たし、栃(ト)の(ツ)実(ポ)もコロコロ転んで来た。そして皆整って、敵とって呉れると言うて、猿の家さ行った。猿はまだ夜上りしなかったと。そうすっど、栃(ト)の(ツ)実(ポ)は囲炉裡の中さ隠れ、蟹は水舟さ入り、亀蜂は味噌桶さ入り、臼は屋根の上さ登って、昆布は戸の口さ、ヌルヌルとなって、いっぱいに貼(は)りついたと。
 猿が帰って来た。腹あぶりに囲炉裡さ行ったら、栃(ト)の(ツ)実(ポ)が跳ねて、金玉から顔から、皆火ぼい掛ってしまったと。
「いや、熱いあつい」
 と、水舟さ行ったところァ、蟹が鋏でパッキリ嵌っで、こんじぁひどいと思って、こういう時は味噌を付けっどええどて、味噌桶のふたとったところが、亀蜂がとんで来て、ジュクジュクと刺されてしまったと。
「いや、こんじゃ家の中さいらんね」
 と思って、外さ出んべと思ったら、戸の口の昆布さ滑って、べったり転んだと。その上さ臼ァ転んで来て、ビッチョリ猿をつぶしたと。んだから悪いことァさんねずな。とーびんと。
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