32 嫁の屁

 あるどこで、(せん)に、御説教聞きが流行(はや)ってだ。どこの家でもその説教聞き行ぐがった。ほして、ほこの姑かかさま、嫁ば引張って歩った。なしてて言うど、自分がたれた屁、嫁さかんづけ、かんづけした。そのため自分ばり歩くと、「あの人、たっだ」て言われるもんだから、嫁ば引張って歩った。
 お寺さまさ行って、説教きいた。いよいよ説教がセメに入ってたれば、我慢しったげんど、そのおかちゃんが一発やらかした。ブウッー。
 ほうしたけぁ、いきなり嫁こ見た。
「なんだべ、このありがたいとき、屁なのたれて、ひどいもんだ、ひどい嫁なもんだ」
 て言うたて。はいつ聞いっだけぁ、お寺さま気の毒がって、
「ブッとたれれば、仏法のはじまり、スウーとたれれば、すぐ極楽」
「あらら、んたべか、お寺さま。んでは今んの、嫁でない、おれだった。んでは名前つけでで()らっしゃい」
「名前、何と言うた」
「柳町の弥兵衛かか、お(へい)のお松ざぁ、おれごんだ」
 て言うたれば、聞いっだ人はみなアハハ…て笑ったて。どんぴんからりん、すっからりん。
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