30 口立たぬ嫁

 むかしむかし、ある村に非常にきれいな娘いだんだけど。
 ところが、ほの娘は何だか口立ったな、あんまり他人も聞いたことないて言うていだんだど。んで、年頃になったもんだし、いやすばらしいええ娘だげんどなぁ、なて話になってだ。して、その娘ばほこの隣の村の、すばらしい旦那衆さ、ある人が仲人した。器量はええし、朝げ早くからせっせと稼ぐし、聞くところによれば、縫い針は何させても一丁前だ。どうだ、お宅でもらわねが。一口(あきな)いで「もらった」て言うても、何だし、一口商いは嫌ったそうだから、
「んでは、家の方でも調査して」
 なているうちに、また別の人来て、
「お宅さ嫁仲人きたげんど…」
 なて来た。ところが、
「誰それさんが、どこそこの娘仲人してったぜ、ええ娘だす、読み書きも()っす、縫い針は一丁前だし」
 と言うわけで、言うて行った。ほしたれば、
「うーん、あそこの親父が、あいつぁ千三つだ、千語るうち、三つしか当らねなだ」
「はぁ、千三つか、ほんでは分んねかな、何だか」
 ていた。
 ところが早く仲人した人がヒョコヒョコと来たけぁ、
「なぜ決めて()だまず、行ってみるばかりも見ねがまず」
 て言うた。
「いやなぁ、実はお前の村の誰それさんていうの来たけぁ、お前ば千三つなて言うてった。ほんでなくてさえも、仲人ざぁ嘘こきだ、嘘こきだって、嘘のこき上げと仲人の仕上げは同じだと、(せん)にから言うたもんだ」
「何だ、誰それ親父言うたの、当てなんね」
「んだて、ほう言うて行ったも、お前ば千三って言うたぜ」
「千三つなて、とんでもない。あの野郎なの万サラリンの万カラリンて、万言うてさっぱり当らね野郎だ」
「はぁ、ほうか」
 ていだ。んでは千三つの方がええて言うわけで、千三つの言うこと聞いて、その嫁さんもらった。ところが、万サラリンが言うた通り、口立たね。
「へえ、これは唖であんまいか、オッツ(唖)だべ、こりゃ、こだなもの仕方ない、こりゃ返して来んなねべ、こりゃ」
 て、姑おっかちゃんが連れて、ほして帰してくんべと思った。ところがある原っぱまで行ったら、キジがケンケンて言うたと思ったら、鉄砲の音がドガンとしたけぁ、キジ、バサラと落っだ。
 したれば、ほっちの方振り向いっだけぁ、ほの嫁さまは言うた。
「キジもケンケン鳴かずば打たれまい」
 て言うた。ほうしたれば、その姑かぁちゃんが、
「ああ、何だ、こだい立派に、しかもええ時期に、ええ言葉立つなだ。これは唖や何かでない。人間は一番のわざわいは口からだ。んだから無駄口喋らねな、これは女の鏡だ。()て行って、家の嫁にすんなね」
 て言うわけで、そっからいきなり戻ってきて、そこの若奥様におさまったけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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