14 団子浄土

 むかしとんとんあったずま。
 あるところにじんつぁとばんちゃいだけずま。ほうしてその年ぁ何だか作ええくなくて、ええ米、うまく穫んねがった。屑米みたいなばりだった。
「んだげんども、こりゃ、ばんちゃ、ばんちゃ、お八日には地蔵さまさ団子上げっだった。まず、悪い米だって、地蔵さまに勘弁してもらって団子上げんなねべなぁて言うわけで、じんつぁとばんちゃ、粉はたいて、ほして、はいつば練ってセイロでふかして団子搗きはじまった。ほして腰のし、腰のし、団子搗きして、ばんちゃ丸べた。ほしたれば何の拍子だか、ばんちゃの手から団子ひょろっと、転げて落っでしまった。
「はてはて、これぁ困ったもんだ。地蔵さまさ上げんなね団子落したんでは、うまくない」
 と思って、団子さ追かけて行った。ずうっと追いかけて行った。ほして今度ばんちゃこわいから(つかれたから)、
「団子どの、団子どの、待ってでけろ、どこまでござる」
 ほしたれば、ずうっと団子行ったけぁ、ちっちゃこい孔の中さ、ひょろいっと入ってしまった。ねずみ穴みたいなどこさ。したけぁ、そこさばんちゃもこそこそと入って行った。ほしていたれば、広い原っぱあっけ。
「いやいや、あだな狭いとこから来たれば、すばらしい原っぱあるっだ、こりゃ。どっちゃ行ったべ」
 と思って、
「おお、団子どの、団子どの」
 したれば、団子どのはまだ、コロコロ、コロコロとばんちゃば待っていながら転げて()んけ。ほして団子さ追っかけて行ったれば、万年堂みたいなあって、ほっからつうと先さ行ったれば、お堂あって、そこに地蔵さま立っていだっけ。
「はぁ、ここさも地蔵さま立ってござった。何だか、おら方の地蔵さまとよくよく似てる地蔵さまだ。地蔵さま、地蔵さま」
 どこの地蔵さまだって同じだと思って言うた。
「地蔵さま、地蔵さま。地蔵さまさお上げすっだいと思って団子搗きしったれば、手からちょろっと団子こぼっで、団子さ追かけて来たんだげんども、ここらで見失ってしまったはぁ。地蔵さま、不調法だげんど、はいつ見ねがったべがっす」
 て言うたらば、
「ばんちゃ、ばんちゃ、おれぁ今御馳走なってしまった。いや大変うまい団子だった」
「地蔵さま、ほだごど言うても、ええ米も取んねで、()れ米だったから、うまいわけなのなかったべげんど、おらえでの一番ええ米で搗いた団子だったず、まず」
「ああ、ええ、分った分った。時になぁ、ばんちゃ。ちょえっとおれの膝さ上がれ」
「なんだ地蔵さま、地蔵さま、拝むことこそすれ、膝さなの上がらんねっだな、もったいなくて」
「いやいや、上がれ、上がれ。おれの命令だからな」
「んだら仕方ないっだな。地蔵さま、ごめんしてけらっしゃい、ああ、どっこいしょ」
「ええか、ばんちゃ、ばんちゃ、こんど肩さ上がれ」
「肩さなて上がらんねっだな。膝さ上がらんねんだも」
「ええから上がれ、ええから上がれ」
「ほんじゃ、よっこいしょ」
 肩さ上がった。
「ばんちゃ、ばんちゃ、頭のてっぺんさ上がれ」
「なんだまず、地蔵さま、ほだな頭のてっぺんさなて、おれ上がらんねっだなす」
「ええから、上がれ」
 て言うて頭のてっぺんさ上がったれば、上は何だか頭のてっぺんみたいでなくて、ちゃんと坐っているい。ええどこあるんだけど。
 ほだいしているうちはぁ、いつかの小間(こま)に暗くなって、鬼集まってきたんだど。
「何だか人くさいようだね」
「人の匂いするなぁ、んだげんどもここの地蔵が原、おら方の原っぱだから、人なの来るわけないもなあ。あだい()っちゃこい穴もぐってくるわけないもなあ」
「んだずねぇ」
「どうだ、そろそろ始めっかい」
 て言うたけぁ、ジャラジャラと銭出して、丁半の博奕打ちはじめた。したけぁ、地蔵さま、小声で囁いだんだど。
「ばんちゃ、ばんちゃ、ええか、おれちょっと一ぺん突っついたら、コケコッコウて鶏の真似するんだ。二度突っついたら二回鳴くんだぞ。三度突っついたら、三度鳴け」
 こういう風に言うた。して、ちょうど丑三頃になったれば、地蔵さま、ばんちゃばちょぇっと突っついだ。ばんちゃ、ほれ、地蔵さまから命令さっだもんだから、絶対服従だ。コケコッコーて言うた。ほうしたれば鬼だ、博奕打ちぱたっとやめて、
「おお、今日は早いな、一番鶏ぁ。んだげんど二番鶏まで一刻(いっとき)ほどあっからな」
 一刻ていうのは今の二時間、何、まもなくはぁ、一時間もおもったら、こんどは二番鶏、「コケコッコー、コケコッコー」て、二度やった。
「やぁ、二番鶏鳴いた、ほんではまず、いそげ」
 そしてまた博奕始まった。丁半、丁半で始まった。ほしたらば、間髪を入れず地蔵さま突っついだ。ばんちゃ本気なって、「コケコッコー、コケコッコー、コケコッコー、トトコノクー」て、三べん鳴いだらば、
「三番鶏だ、他の人来っどなんねぇから、んじゃ、んじゃ(行こう、行こう)」
 て、みな銭ぶち投げて行ってしまった。ほうすっど地蔵さま、
「ばんちゃ、ばんちゃ、実はな、お前から御馳走になってだ地蔵さまも、おれも同じもんだ。とぼしい中からも、毎年毎年団子こしゃえで上げてもらった。忘せらんねんだ。んだからここさ鬼ども置いで行った。銭、ろくだなことしてとった銭でないから、おれぁ巻き上げてやったんだ。結局、かいつ、家さもって行って、じんつぁとばんちゃと仲よく暮らせな」
「んだげんど、地蔵さま、あだな狭っこい道狭っこい穴んどこ、こだい銭もって行かんねべした。つうとでええっだな」
「いやいや、お前、欲ないこと、ほだごと言わねで、ええか、おれ、今、まじないして()っから目つぶれ。ええか、ほら、目開いてみろ」
 パッと目あいでみたら、自分の家どこさ投げ出さっでいだんだけどはぁ。ほして、「じんつぁ、じんつぁ」
 じんつぁ、まだ臼んどこさ、ばんちゃいねぐなったし、団子、なぜしたらええかと思ってうろうろていだけど。
 一晩過ごしてきたような気してきたげんど、大した時間経っていねんだけど。ほして銭いっぱいもらって、二人は、よく後あとまで暮したんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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