4 左甚五郎のねずみ

 むかし、むかし、飛騨の国に左甚五郎という人いだんだけど。
 その人が十三才になったもんだから、工匠(たくみ) て言うて、大工さんさ弟子入りしたんだど。ほうしたれば兄弟子だ。十五・六人いだった。で、師匠はんが、
「お前ださ、一週間の余裕を()っから、ねずみ彫ってみろ、誰一番上手だか、一番上手に彫った者さ、御褒美けっから」
 ほうしたれば、次の日から、みな一生懸命松の木を削ったり、(けやき) を削ったりして作り始めた。甚五郎は遊んだり、ノミ研ぎしたりばりしていて、なかなか彫らね。ほうしていよいよ明日で七日目だていう夜から、彫り始めた。一晩で彫ったもんだから、本当の荒彫りしか彫らんねがった。
 ところが、他のあまた弟子どもが彫ったな、いや、すばらしくトロトロ磨きかけて、トクサというもんで磨いて、ちょっどツクヅクシのスギナみたいなトクサていうな、原前に生えておった。それを取ってきて、一生懸命に磨いた。まず、
「これ一番だべ、あれ一番だべ」
 て、みな評判になってるうち、ヒョロッと出したのは、まるで荒彫りのねずみだった。ところが、次の日いよいよ審査てなったら、その師匠はんが猫一匹()て来て放した。ねずみだから、猫がくわえんのが一番と、本物に似たものに相違ない。ていうわけで、その師匠はんが猫放した。ところがウウ…て、いがんでいたけぁ、甚五郎の彫ったねずみば、いきなりくわえた。
 なして、あだな荒彫りの、面くさいな() わえだべなぁと思ってだ。ところが、ほのねずみの材料が鰹節だった。んだから格好なのどうでも、鰹節食だいばっかりで、猫はねずみばくわえて行ったわけだ。んだもんだから、一週間も前から彫ってっど、みんなに悟られっから、明日ていう晩彫った。それだけ左甚五郎という人は、腕ばっかりでなく、頭もええ人だけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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