和田の昔話調査ノート

 置賜民俗学会の昭和五十三年度、五十四年度の民俗調査を、ここ高畠町中和田、 上和田にえらんで実施した。人数と調査日数の都合もあって、不十分ながら、口 承文芸を担当したことから、数人の話者から、昔話・伝説を聞く機会が与えられ た。まだまだ不十分なので、出来れば今後も続けて実施したいと考えている。

 和田地区は有名な亀岡文殊尊のある亀岡に隣接し、さらに南には上杉領の米沢 がある。江戸時代に、幕府の直轄領と上杉私領との間を行ったり来たりしたとい う歴史的事情もあり、高房神社の由来などを見ても、古い時期に成立したという こともあって、さらに、亀岡文殊尊のにぎわいなどから、独自の文化圏をもって いたことは、たしかである。
 昔話一つを取上げても、若い衆の間に、作業の合間、あるいは若衆が冬の間三々 五々集まって藁仕事などをやった、木小屋生活の中で伝承伝播された「佐兵ばな し」「長手の伊佐」「船坂新兵衛」などの世間話から、囲炉裏ばたへ入り込んで行っ た昔話がよく語られ、「誰でもが、二つや三つは知っている」というほど、親しま れているようである。またそういった文化遺産を地区で、大切にして行こうとし て下さっていることは、うれしいことであった。よい話者は今からも見つかると 思われるが、「若衆話」の山田喜一氏、動物むかしや本格昔話の武田はる氏などは 大変すぐれた話者と思われる。
 〈佐兵ばなし〉がその本場でもあるこの地域であり、今後も継続して調査に当 りたいと考えている。
 過般、高畠三中の資料をいただいていたが、私の採訪にない資料があるので許 しを得て、記録のために記しておきたい。


① 佐兵のはばき
 冬になって皆んな、木小屋でわら仕事をしていだけど。そしたら、佐兵、はば きを四通あんで、「できた」と言って皆んなさ見せたど。「佐兵、佐兵、お前のは ばき四通か、そだな、はばき、あんめちゃ」て言ったら、佐兵おちついて、「米だ て四通の俵に入れて、むぐらないもの、俺のすねむぐらないべ」と言ったけど。


② 佐兵にばかにされたはなし
 昔、高橋屋敷に露藤の屋根葺きが二人で、屋根にのぼって仕事をしていました。 そこで、佐兵という人が通りかかり、屋根やさんに、「となりの人死んだ、今和尚 様、たのみに行くとこだ」と声をかけて通った。屋根屋さんもおどろいて、家に 帰って行きました。ところが死んだと思った人が柿の木にのぼって柿をもいでい た。屋根やさんは佐兵に、「なんだ、死んだ人が柿の木にのぼって、柿とりしった ではないか」とおこりながらいいました。佐兵は、「屋根からおりて行けとは言わ ず、ただ、となりの人が死んだと言っただけだ」といいました。
(「郷土の確認」13回三中祭)パンフレットより

 この調査にあたり、話者の方々はもちろん、和田地区公民館長はじめ職員の方々 の多大の御協力、中央公民館の富樫氏、星寛治氏に深謝いたします。
武田正
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