30 佐兵ばなし― 魚屋に仇―

 佐兵が魚屋の前通ったれば、大きい鮭のよ、あっけども、
「そいつ、なんぼする」
「佐兵兄にゃだからはぁ、百にまけっかはぁ」
「はいつ、もらうべはぁ」
 て、佐兵が持ったど。もかしこくていっから、
「待ってろまず、佐兵兄にゃ、売る人は売んねでいらんねげんども、魚に聞いて みっから」
 て、魚持って、
「こりゃ、こりゃ、鮭のよ、佐兵に行きだいか、行きだくないか」
 ていうたば、
「佐兵、行ぎだくないて言うから、今度の次に来て呉ろはぁ」
 て、止 (や) めらっじゃもんだど。と、「ほうか」て、佐兵は来たもんだど。
 こんどぁ、よっぽど経ってがら、
「やいやい、魚屋」
「何 (なえ) だえ、佐兵兄にゃ」
「御祝儀すんなよ、ほんじぇ、鮭のよ注文して、切ってもらいだいと思ってよ」
「ほうか、なんぼや」
「まず、このぐらい。十五ほど切って呉ろ。つうと大きく切って呉ろ、高いった てええがら」
 て、こんど、魚屋、注文どおりに大きく切ったんだど。一生けんめいでな。
「出た、佐兵兄にゃ」
「ほんじゃな」
 て、佐兵は財布がら銭出して、
「こりゃ、こりゃ、銭、銭、にさ(お前)、魚屋さ行きだいか、行きだくないか。 行きだくないから、魚屋、今度の次にして呉んだ」
 これには困ったていうごんだ。大きく切ってしまったしなぁ。
(佐沢・山田喜一)
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