16 笠地蔵

 むかしあったけど。
 むかしむかし、在郷に、あんまり楽でない、難儀しているじさまとばさま、あっ たど。で、
「今日もはぁ、雪ぁ降ってきて、すでに年取りも来るし、ばさま、まず、笠売っ てきて、年取りでもすんべ」
 て、じさま出かけたど。そんで、出かけて行ったげんども、こんど、途中に行っ たば、地蔵さまが雪の中さ立っていたど。
 ほんで、笠売んねぇで、その地蔵さまさ、七つだか持って行った笠かぶせてはぁ、 手ぶらで帰ってきたど。ばさま、
「じさま、年取りだから笠売って、銭もって来んべ」
 と思って、箆 (へら) で尻 (けつ) 叩いて待ってだところぁ、いっこうにそだなことしないではぁ、 ほだたて、萎 (しお) っじゃ顔もしてこない。そしてわけ聞いだれば、
「ばさま、ばさま、こういうわけだったんで、途中で雪ぁ降って、地蔵さま、何 もかぶっていねがら、みな売んねではぁ、地蔵さまさかぶせて呉 (け) だ。ほんで、仕 方ないがら、ばさま、大した年取りさんねったてはぁ、仕方ないごではぁ」
 ていうたば、ばさま、
「ええがった、ええがった。じっちゃ、そんでええがったなだ」
 て。そんじぇ、二人ではぁ、食うものもないから、寝たてだ。
 ところが夜中に、何かやんやんて音すっど思っていたところぁ、夢でないしと 思って聞いでっど、
    笠の代をもってきた
    笠の代をもってきた
 て、何か遠 (と) がくで音ぁする。だんだんに、
「まさか、おら家 (え) さ来たのでないがんべ」
 と思っていだげんど、だんだんに近間さ来て、ほしていだば、こんど神さまが いっぱい来て、米だ、魚だ、いや着物だって、家の前さつんで、そして、
「笠の代、もってきた」
 て行ったど。
 そして行ったところが、昼間売んべど思った笠のかぶせた地蔵さまだったがら、 ばさまも、「ええごどした」て、喜んだど。どーびん。
(佐沢・山田喜一)
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