14 正月の正夢

 一人息子の家があったんだど。
 そして、正月元日の夜に、
「今晩夢見たことは、必ず明日の朝は、お互いにお話し合うごど」
 こういう約束で寝たそうだ。ほうすっど、親たち二人が宝ものの夢見た。悪い 夢はまず語って消してもらうどええ。そうすっど、息子はとんと言わねがったず も。ほうすっど、
「やっぱり、最後の約束だから」
 て、勘当さっだていうわけよ。                                        ほうすっど、ずっと山道の方行ったわけだ。まず自分が夢見たとおりの道を行っ たわけだ。しばらくしたら、すばらしい、昔の旧家だごでなぁ。あったど。(昔、 かくれみのとかくれ笠ざぁあったから、それ着てな)
「竃焚きでも、何でもええから、使ってください」
 て、おねがいしたら、そこで使って呉っだど。
 ほうすっど、こんど、夜になるじど、つまんない部屋もらって、ローソク点け で勉強だど。かくれみのとかくれ笠取っど、すばらしいええ男だったども。
 ほして、一人娘いでよ、
「何だて、あの部屋にいつまでもローソクがついでる。何かふしぎなことあんで ないか」
 ていうわけで、覗きみしたわけだ。ほうして覗きみしたら、すばらしい男だも の。すっかりその人さ惚れてしまったど。
 ほうすっどこんど、恋の病いになって、寝付いたわけよはぁ。あっつの医者、 こっつの医者て、名医にずいぶんかがったげんど、どんなことしても治んねど。
 んで、ある占いに行ったれば、
「ここの家族で、一人、誰でもええから、お薬を持って行って、それ持って行っ た薬をのめば、必ず、この病気はええぐなる」
 こういうわけで、こんどはぁ、いっぱい使っていっから、その使ってだ人、ほ ら上の者から下の者まで、全部、一人一人、薬を持って行ったげんども、誰一人 のも、飲まねがったてよ。
 ほして、こんど、
「ああ、一人、竃の火焚きじいさんいた。その人に、持って行ったてわかんねべ げんども、とにかく一人しか残っていねがら、その人に持って行ってもらう他な い」
 そういうわけで、もって行ぐとなったら、かくれみの、かくれ笠脱いだら、す ばらしい人だもの。
 そして持って行って、お薬出したら、その娘、起きて飲む。それでその娘、治っ たわけだ。
「治れば、ここの家の聟にする」
 という約束だったがら、その息子がそこの家の聟さんになったど。
 実は、息子はその夢見たから、誰にも言わんねがったてよ。
(佐沢・武田はる)
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