22 赤馬と黒牛

 むかしむかし、薬売りの商人が、ずうっと行商して(ある)った。ほしてこれから峠にさしかかっどこに、店しった木賃宿があった。
 ほこさ泊まって、ぶっ魂消た。シラミとノミと、もさもさ居た。何とも仕様ない。夜、()いで、ほっち掻き、こっち掻き、一晩ねむらんねほどやっつけらっだ。で、ほの薬屋考えた。
「ばんちゃ、ばんちゃ。なしてここにこだえ高いもの、ただ、こだえして置くのだ」
「何だっす、お客さん」
「いや、ほかでもないげんども、ここに赤いなと、薄黒いなと居た。これは赤馬と黒牛て、おら(ほう)で言う」
「何だ」
「こりゃ、こいつだ」
「はいつぁ、ノミとシラミだべ、お客さま」
「いや、そうとも言うか()んねげんども、これは江戸さ持って行ったら、とんでもない高いく売れるもんだ。はいつ、高いもの、ただこだえして遊ばせておくなて、もったいない」
「あらら、高く売れるか」
「おれぁ、世話して()っから、帰りまで()めておけ」
「はいはい、ほんでは間違いなく()めておっから」
 て言うて、ずうっと行商して帰って来て、またほこさ泊った。
 こんどは、ばんちゃ、せっせと()めたもんだから、一匹もいねくて、ぐうぐう眠むれた。次の日、
「あの、お客さま、なんぼで世話してもらわれんべ」
 ノミとシラミ、いやというほど持って来た。
「ああ、ばんちゃ、言うな()せっだげんど、こんでは駄目だ、つぶしてしまったど、こらはぁ、つぶした馬や牛買う人ざぁ、どこにも居ねっだなはぁ、丸ごと十匹ずつ串さ刺して、ほしてほの赤い馬の方さは、これは醤油塗って、こんがりと焼いて、ほれからこっちの黒牛の方は、こいつぁ塩焼きだ。十匹ずつ焼いて塩焼きにして、串さ刺してそろえておかねど、商品価値ていうな、ないなっだな、ばんちゃ。ほういう風にしておがっしゃい。おれぁそうすっど今度来たとき、はいつ、ちゃんと江戸さ高い銭で売って()っから」
「はぁ、ほうか、おれぁ爪でつぶしてしまったまなぁ」
 て言うて、その商人がさっぱりかゆくなく、ゆうゆうと泊ることできたけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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