20 けちん坊

 むかしむかし、どこの村でも、どこの宿でもけちん坊ていう者いだった。まず出すもんだらば、懐さ入っだ手出すのも()んだ。(べろ)出すのも()んだ。出すこと一切嫌んだ。こういう人がいっかった。
 ほんで、まず、行火(あんか)抱いたりすっど燃料費かさむていうので、ここの部落でもある家なんか、夜寝る前、家内中ワラ打ちして、ほして温まったところで寝る。
「ああ、どこそこで寝ワラ打ったぜはぁ、寝ろはぁ」
 て、はいつぁ寝る合図になっているようなもんだった。ほして家内中、魚なて買わねで、割箸渡される。真中さ醤油の鉢置いて、その醤油を割箸さふくませて、御飯食んなね、ほういう家あった。
 ところが、「梅干ざぁええもんだ」て、けちの友だちぁ来て語った。
「まず、眺めて一がたけや二がたけ御飯()い。ほれから、はいつ舐め舐め一がたけ、二がたけ。食て、また一がたけ、二がたけて言うど、梅干一つも大変持つもんだ。二日間はたっぷり持つ」
 ところが、ある人が、
「いやいや、とんでもない。まずおれは大分気付けて来たげんども、おらえの息子は大酒飲みになって困った」
「なしてだ」
「おれは割箸一本ずつさ、しみ込ませて酒つうと舐めっけんども、おらえの野郎は二本ずつさ割箸つっ込ませて、酒のむ。大酒飲み野郎だ」
「はぁ、ほれから、お前だ、何だかんだ言うたげんども一番お菜の長持ちすんなは、蛸だ」
「…」
「しごぐど、三日間味すんぜっす」
 て言うたって。ほのぐらい、先にはいろいろ気付けていた人いた。
 ところが、ある部落火事になって、種籾から何からみな焼いてしまったって。で、「何とも仕様ないから、隣村さ行って、いろいろお願いさんなねべ」て、こういうわけで、庄屋ていう人が方々廻って歩った。
「いや、あそこのけちん坊の家さでは、とてもとても、ワラ屑捨てたどて、奉公人が、すこだまごしゃがれでいだったから、行くなだけは駄目だべな」
 て、みな語ったって。ところが、
「いや、行って、もらわんねくて元々、んじゃ話してみろあい」
 て言うて行ったところが、
「どういうわけで来た」
 て、ぎょろっとにらめらっで、みんなすくみ上がった。ほして、実はこういうわけで火事になって、種籾から農具からみな焼いてしまった、百姓、なぜしたらええか分らね、て言うたらば、旦那、
「ほうか、大変お気の毒なことだ、おら家では常々(つねがね)けちっていっけんども、こういう時人助けすねでなんねぇために、みんなと収入なて言うな同じだ。どこか倹約しねど、生きて行かんね世の中だから倹約してるだけであって、世にいう、みな悪口すっけんども、ほだえ悪れ者でない。まぁ農具の(ふる)な、みんな()でやる、ほれから種子に必要なものは、全部やる。ほして百姓続けなさい」
 て、こんな風に言わっだ。
 んだから、無駄ていうな、徹底してはぶいて、ほして、そういう一朝有事のときさ、そなえて置かんなねもんだど。只けち..ばっかりでなくて、やっぱりその世の中の冗費、こういうものを、うんと節約すんなねて言うことを、その人は身をもって教えだんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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