16 和尚と小僧―鮎はカミソリ―

 あるところに和尚と小僧と暮していた山寺あった。
 ところが、ほの和尚はむやみ、肉だとか、魚だとか好きだ。本当の生臭さ坊主だ。むかしは四足二足、生臭さは食ね、植物でもネギは生臭さの部だって、ネギまで食ねがった。んだげんども雑魚()めは好き、雑魚は大好きで何とも仕様ない。小僧ば、ほれ、他さ()れっどなんねから、使い出しては鮎そおっと(あぶ)っては食う。ちょっと()ね勘定して鮎焙りしった。鮎は香魚て言うて、これはとてもうまいもんだ。イワナか鮎かて言わっだぐらいだから、ほの、鮎焙ったどこさ、小僧ひょっこり帰って来た。ほして、
「和尚さま、和尚さま、何焙ってた」
「うん、カミソリざぁ、ええ香りするもんだな」
「ほだ」
「あら、カミソリなて、金でないどこれ、和尚さま」
「こいつぁなぁ、カミソリて言うげんど、カミソリの木の葉っぱだ」
「はぁ、まるで雑魚みたいなもんだね」
「いや、これはカミソリの木の葉だから、木の葉焼いて食ったって、誰も何ても()ねんだ。立派な木の葉だぜ、ええか、よく憶えておけ」
 ほして、
「こういうことは見ざる聞かざる言わざるて、ほういう風におぼえていんなね。ええか、分かったか」
 ほだえしているうちに、檀家から法事さ()ばっだ。二人はタカタカ行ったれば、橋渡っど思ったれば、いっぱい、橋の下さ鮎泳いんだ。ほうすっど小僧は、
「和尚さん、和尚さん、ここさカミソリの木の葉いっぱい居た」
「こらこら、馬鹿なこと言うな、見ざる聞かざる言わざる」
「はい」
 行った。ほして法事さ招ばっで帰り道、何考えて来たか、ずうっと来るうち、風がファッと吹いて来たけぁ、和尚さんの帽子(しゃっぽ)吹っとばさっだ。ほんでも何を考えていたもんだか気付かないで来た。ほだえしているうち、カラスぁ飛んで来たけぁ、糞ひっかけらっだ、カラスに。ほして禿頭さピシャーッと落っだ。いきなり手をやってみたらば、帽子(しゃっぽ)ない。
「これこれ、小僧、おれの帽子落っだぞ。お前気付かねがったが」
「和尚さん、気付いたげんども、和尚さんが、見ざる聞かざる言わざるて言うたもんだから、見ざるのつもりしった」
「ほう言うとき使うもんでない。こんどは落っだもの、皆拾ってこい」
 小僧はその帽子拾ってきた。ほしたれば木さつながっていた馬、尻尾(おっぽ)上げだけぁ、ポタポタポタと馬糞落した。いきなり和尚さまの帽子さ馬糞、山もりつめて帰って来た。
「持ってまいりました」
「何だ、この野郎、ほに、帽子持って()いて言うに、馬糞まで持ってくる馬鹿あんまいな。しかも帽子の中さ入っで持って来るなて」
 て言うたれば、
「今、和尚さん言うたばりでないか、落っだの皆拾って来いって、今おっしゃったばりでないか」
「うん、仕方ない、カミソリの木の葉焼いて食せっから、ほの帽子洗濯してこい」
 て言うたて。どんぴんからりん、すっからりん。
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