15 鴨うち

 あるところに、とっても鉄砲()ち好きで、上手で、ほして鉄砲打ちの自慢話ていうど誰も聞く人いねがったどはぁ…。
 んで、ある若者さ、また鉄砲打ちの自慢話始まった。
「いやいや、旦那、旦那、自慢話ええげんども、ほだな、()せもしねで自慢話ばりしたんでは、誰も聞く人いねぐなんのだ。表にはハイハイて居っけんども、ほだな、はっじぇげだな話聞くだくないなだ。御馳走して、うまいものこういう風に()ったて言えば、始めてはいつは旦那、なるほどて言うっだな」
「それもそうだ、んだらば今夜、おら家さ来い。青首御馳走すっから」
 こういうわけで、夜招ばっで行った。ほうしたれば、ほの鴨の青首()めてきて、自分ばり肉食って、ほの若者さは大根ばっかり食せた。若者は、ほれ、
「旦那、まず大したもんだったな」
 て、旦那おだてて、旦那、有頂天になって、
「どうだ、その青首の味は…」
「大へん結構だ、まず最近こだな青首、御馳走なったことない」
「んだべぁ、おれ獲るな、きわめて上手に打って来っから、味までええんだ」
「ときに旦那、おれぁ青首ゾロッと並んで集まっどこ知ってだ」
「はぁ」
「ほだな、一つ二つでないぞ、何十、あるいは何百と並んでいる」
「ほう、はいつ、なぜするもんだ」
「ほだなもの、首ひっこ抜いて…」
「うん、首ひっこ抜くど、血ぁ抜けて、味ええな、別っだな。うまいことやるも  んだな、若衆に似合わねで、うまいこと知ってるな」
「土くさくないし、いきなり引っこ抜くと…」
「うん、鴨は泥土から来て、泥くさいっだ。ほして、いきなり引っこ抜いて土喰付けねで…」
「ほたっだ、土喰付けては、土くさいからな、よし、んではおれさそこば案内しろ」
「旦那、案内すっけんども、只で()んだっだな」
「ん、只なて、おれも()ねっだな」
「んでは、仕方ない、まず夜行ぐんだから、一晩そこへ居らんなねがも知んねし、あれだから、鮨でもぶって()ろ。おれぁイナリ鮨でも海苔巻きでも、どっちでもええから、あとそいっちゃお(かず)と、ええ塩梅たのむっだな。旦那にまかせっから」
「青首、ほだいいっぱい居たどこだら、ええ。ほして、ほいつは毎晩ほこさ来っか」
「いや、毎晩、まず毎晩なていうもんでない、ほれこそ久しくそこさある。秋遅く雪降るまで段々太くなる」
「はぁ、不思議なもんだな、肥えて来っか」
「はぁ、肥えてくる、青色もだんだん濃くなってくる。秋(さか)濃くなってくるんだ」
 旦那、鴨のつもりだ。ほしてコソリコソリと行って、
「ここだ」
「なんだ、鴨ざぁ、空前(からまえ)どか沼地さばり出っど思ったら、畑さ出んのか」
「ほだほだ、青首ざぁ畑さ出る」
「いや、今の今まで、鉄砲打ちしったげんども、畑さ青首出っざぁ知しゃねがったぇ、うわぁ」
「ほだ、旦那も抜けでっからよ、ほだな沼地や川さは、流っだ者しか行かねなっだな」
「あんで、流っだものか」
「ほだ、流れついたものや、流っだものは、ほれ、川や沼さ行んかも知んね、本ものていうな、畑だ」
「ほう、畑さ青首なぁ、今の今まで知しゃねがった。よし」
 ほして行って見っど、
「旦那、ここで這え」
「ほうか、這ってか、火縄さ火つけんぞ、ええか」
「ええ、ええ、火縄銃などいらね、首たま押えて、根っこボイボイと引っこ抜くきりだから」
「ほだえ夜ざぁ、簡単に引っこ抜くいが」
「ああ、引っこ抜ぐい。()んだてばり言うな。旦那、おれ今引っこ抜いて背負わせっから」
「ほう」
「ほの前に、旦那持ってきた小夜食(こやしょく)、御馳走なるべ」
 て、そこでまず、モッキリ一杯かぶって、
「海苔巻き、うまい。イナリ鮨はうまい、お宅の奥さんは料理人だ」
 なて、おだてて、ぺろっと平らげて、
「ここで這って、ここから行って獲んべ」
「何だ、なんぼ待ってても青首来ねど、こりゃ」
「何だ、旦那、青首来ねなて、青首だらけだどら、ほこら…」
「どれ」「こいつ」
「こいつぁ、大根でないか」
「こいつ、宮重大根、青首大根て、こりゃ青首っだな」
「おれぁ鴨のごんだぜ」
「何だ、鴨なて、青首さ招ぶなて、おれさ食せだな、大根ばっかりだったどら、  んだからこいつのことだと思ったっだな」
「何だ、ほだべてぁなぁ。押えて引っこ抜いて、土くさくなくて、一番うまいの何のて、話ぁうますぎると思った。ほうか、ほんでは今度からお前さ鴨の肉食せっから、鴨居っどこ教えろ、今度から」
 て言うたて。どんぴんからりん、すっからりん。
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