11 酒の篭抜け

 関所て、他所者が勝手に出入りさんねように、関所ていうのあって、そこを通るには、手形とか、あるいはいろいろ調べらっだりして通らんなねがった。理由もなく通らんねがった。
 んで、ある人が米沢・中山・宮内方面さ用があって行った。そして丁度、川口と中山の間どこさ行って、関所さ行ったれば、
「これこれ、どこへ通る」
「はい、中山(ちゅうざん)米沢(べいたく)宮内(ぐない)に通る」
 音読みにさっだから、なかなかその役人が理解さんねくて、首ひねったけぁ、
「通れ、通れ」
 て、何も調べねがった。こういう風に関所の役人が(たち)悪れことなのばり一丁前でも、非常に品位が悪かった。女からかってみたり、あるいは荷物取ってみたり、いろいろ悪さをした。
 で、あるとき、節句の牡丹餅でも娘さ食せっだいと思って、その関所通ったら、
「これこれ、何持って行く」
「実は娘さ、こういうわけで牡丹餅持って行ぐ」
(なん)た出来だ。こっちゃ出して見ろ、牡丹餅なてとんでもない物もって行って、毒殺でもすんのでないか、わしぁ一つ塩梅みてやる」
 なて言うわけで、
「うん、これは毒の入ってないようだ」
 ぐらいで、あらかたやっつけてしまう。そういう風な餅であろうと何であろうと、皆そういう風にして巻き上げらっだ。村人は、
「いや、困ったもんだ。とんだお役人に、あそこ通るには、まずはぁ、倍持って行っても半分も向うさ着かね。丁度かおすさ巣を頼んだみたいなもんだ。途中で半分も溶かしてしまったと同じで無くなってしまう」
 んで、ちょっとした智恵のある人は新しい小便、桶さひたして、ほいつさ(こも)かぶせて寒酒のええなつめて行った。ほして行ったらば、
「これこれ、何だ」
 なて、役人来た。
「小便水でございまする」
「うん、小便。どれどれ、調べてみる」
 樽寄せて、栓とってみたれば、プーンと酒のええ匂いして来た。
「うん、お前どこの小便水はすばらしくよくできてるな。これは水と米がええがら小便がよく出来んのがなぁ」
 て言うわけで、少し手入れっでなめてみたれば一口・二口飲むうちはぁ、相当やらかしてしまった。役人が、
「そういう小便水、おれにも呉れ」
 て、御飯さかけて食った。
「いやいや、これはすばらしいもんだ。一粒一粒みな立つ、相当ええ小便水でないど、こうならねまなぁ」
 なて、ここではぁ、()あらかた、やらっで、三分の一も目的地さ届かねがったんだど。
 今度、よりより百姓が相談した。
「まず、一かばちか、本当の小便つめて行げ」
「ほだごとしたら打首だべ」
「ほだな、何か一つこれらかさねど、分らねべ」
 て言うわけで、元のじんつぁ、また前の樽さ、こんど本当の小便つめて、蓋して菰かぶせて背負って行った。
「ああ、これこれ、また小便水()したな」
「はい、さようでございます」
「どれ、検査するから、こっちさよこせ」
 暇ならしてはぁ、また別の人ぁ、
「御飯の立つ小便水もって来たか」
 て言うわけで、有無を言わさず、その口栓とって御飯にかける。いきなりガブ飲みした。とんでもない。これぁ本当の小便だ。「ウェー」て言うけぁ、みな吐くやら、御飯は全部駄目になるやら、「無礼者!」て言うてみたげんども、結局は小便水のんで人を制裁したなていうど、自分だの首あぶないもんだから、泣き寝入りした。それ以降決して百姓町人の持ちものに手かけねんだけど。ほの小便樽がきわめてええ薬になってはぁ、決して役人ざぁ、ほれから悪さしねがったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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