9 鼻高扇

 ある、つうとトンマな男が夜夢見たんだど。天神さまさお詣りに行った。したれば天神さま、
「お前さ、ええもの()っから、お前はあんまり頭ええぐないげんども、正直者だから、ええもの呉る。たしかに金にもなっす、ええどこと縁組もされっす、んだげんども、図にのってあんまり変てこなことすんなよ」
 て、天神さまに教えらっだ。ほしてそれは何だかと思ったれば、天神さまの境内さ扇子が落っでる。ほの扇子、表は天狗の面、裏はオカメの面、彫らってる。
「天狗の面描かった方で扇ぐと鼻のびる。オカメの面描かった方で扇げば鼻ちぢむ。ゆめゆめ、まず、あんまり無駄に調子にのって無駄にしねで、有効に使え」
 はっと目覚めた。ほして取るものも取りあえず天神さまの境内さ行ってみたら、やっぱり古扇が落っでいだっけ。
「どれ、一つ試してみっか」
 て言うわけで、
「何試してみたらええがんべなぁ」
 て思って考えっだらば、すばらしい長者のお姫さまが、若者七、八人も連れて花見に来た。ほうして、ああだこうだて威張りこぐって、みな人ば顎で使って、「ほら、蓆持って来い、ほら、何敷け。それ何出して食せろの、飲ませろの」て威張ってる。はいつ見てうらやましくなった若者が、
「ほんではよし、一つあのお姫さまの、伸ばして呉っか」
 て言うわけで、木のかげでファリファリ、ファリて扇いだれば、「あれあれ」なて言うけぁ、たちまちあれよあれよて言ううち、お姫さまの鼻三間ものびて行ってしまった。ほうしたら、ほれ、側近はあっけに取られていだけぁ、今度ぁ悲鳴あげて泣きはだた。何とも仕様ない、お付きの者だ。
「こんではまず嫁入り前のお姫さま、こだな姿見せらんね」
 て言うわけで、風呂敷かぶせた。風呂敷かぶせても長いままで何とも仕様ないから、先から象の鼻みたいにくるくると巻いだ。
「いたたた、巻かねで呉ろ」
 巻かねでも歩かんねし、何とも仕様ないと、こういうわけで、そおっと大輪に巻いて風呂敷でかぶせて巻いて、そいつば麻糸で巻いてキリキリと結んで、ようやく帰って来た。花見どこでないはぁ、家の中大騒ぎ、そっちの医者、こっちの占い師たのんで、何してもその鼻治んね。曲げっだもんだから痛くて仕様ない。苦しくてなんねぇ。
「ほんじゃ、なぜする」
 て言うわけで、座敷さねかせて、枕三十ばりさせた、鼻さ。ほして、
「かいつ、元通りの鼻にした人には金子百両と、このお姫さまのお聟さんに迎える」
 こういう立札建てたり、触れ出したりした。「よし、しめしめ」て言うわけで、今度はその若者がそこさ行って、ほして診察した。
「うん、先生さま、治っかっす」
「いや、治るとも()んねし、治らねとも()んね」
「いや、ほだな心細いこと()ねで、何とか治していただきたい」
「そうか、では打つだけの手は打ってみる」
 と、こういうわけで、かねて用意して行ったソバ粉とソバ粕、こいつを水に溶かして、
「んでは、ここにお出になった人だ、このソバ薬て言うな、塗ってもらわんなね」
 そして障子貼るハケで、そのソバ粉に解いた奴ば鼻さ塗った。ソウソウして大変気持ええ。
「どうです」
「はい、大そう気持よくございます」
「いまに、んでは、ちぢめて上げっから」
 て、そおっと誰にも見えねようにして、そのオカメの面出して、コワリコワリ、フワリフワリと扇いだれば、あれよあれよて言ううちちぢんできた。そしたれば、ピタッと元の鼻になって治った。
「いやいや、すばらしい大先生だ。んでは明日から、おら()の聟どのになってもらわんなねはぁ」
 ほして、
「金百両はホンマツ(小遣い銭)としてお前さ上げる」
 さぁ、金に不自由ない。聟どの、三国一のお姫さまと言わっだ器量よしと一緒になる。これよりめでたいことないことになってしまった。んだげんども、若者はお空の雲さ触ってみたことない。
「あいつ、一つ雲を触ってみたい。手は届かない。これぁ、鼻であそこまで行かねが」
 て言うわけで野望抱いて天狗の面で、次の日、野原さ行って、仰向けになって扇ぎはじめた。のびるはのびるは、たちまち雲さ届いてしまった。どさ行ったかて言うど、雷さま一家の囲炉裡さ出はってしまった。ほうすっど子どもら、
「あら、おかちゃん、おかちゃん、囲炉裡の中さ茸出た」
「こらこら、春先の茸ざぁ、当っから食うもんでない」
「いや、見てろまず、世にも珍らしい茸なもんだ」
 ほん時、ちょうどほの雷さま一家のおかちゃんが子どもの下駄の緒立てしった。下駄の緒立てっどき、焼火箸で下駄の目、つうと大きく火箸焼いっだもんだから、
「どれ、どれ、んだら、割れる茸は()いって言うから、焼火箸、()っとおしてみて、ほっから、ふちゃえで見っか、んだど()いか()んねかわかる」
 て言うから、魂消た若者がいきなりオカメの面扇いだ。急にふぁっと上さつまって、そのはずみにそっから抜けて、雷さま一家の雲の上から落っでしまって、落っどき、クルクル廻って落っだもんだから、田んぼさ落っで田螺になったはぁていう話もあれば、畑さ落っでヒョロロンコになったていう話もあれば、海さ落っでホラの貝になった、あるいは山さ落っでカタツムリになったど。その後の消息は明らかでないがったど。どんぴんからりん、すっからりん。
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