6 天気占い

 むかしむかし、上の山の城下で、殿さまがずうっと昔は、天気なて関係ないがったげんども、鉄砲あるいは煙硝なて、火薬なて使うようになって、百姓以外に侍も天気予報が必要になって来た。ほんで殿さまがお触れを出した。
「天気に対して自信のある者は、明日、明後日申し出ろ。うまく当った者には、智恵相応のお礼をする。まず、十日の人足赦免だ」
 こういうわけで、いろいろ集まったのは、百姓、これはまずいろいろ天候相手に仕事してんのだから、大(ばく)()打ってんなだから、百姓の数が一番多かった。その次集ばったのが、いろいろだ。大工・左官、それから唐傘屋、中には医者まで居だった。むかしの医者ていうものは、注射や何かえないもんだから、ほとんど漢方薬で治しった。ところが漢方薬ていうのは、夏のうちにいろいろ草集めて、干しておいて、それを使う。んだから気象観測ていうの、非常に大切だった。まぁ冬に、どういう風のときには、夏はどういう風になる。今年の夏が涼しかったら冬暖かいとか、いろいろそういうこと長年にわたって研究して、うんと寒くなるときには風邪流行(はや)るとか、あるいは、うんと風吹くときには、眼病になるとか、そういう風なこと、眼病になった場合の薬の準備、そういうようなことで、医者も一応お天気予報に加わった。ほして片っ端からいろいろ聞いでって、それをずうっと点検して、ほして一番当ったものに一番ええ御褒美をつかわすというわけだ。んで、今でもそれが使わっでる。
 まず第一番に、
『お月さま笠掛かっど、次の日かその次の日、雨だはぁ』
「よし、この書記がひかえる」
『それから、朝焼け、朝てっかりは聟泣かせて言うぐらいだから、これは雨だった』
『夕焼け真赤なときは、明日天気がええ』
『毎日、城中で鳴らす太鼓の音、ドンドン、ドンドンてええ塩梅に鳴っど、これは天気。バララ、バララなて、おかしげな音立でっど、これは雨』
『ケラツツキ(キツツキ)がカラカラーと音やって、リレーのようにこっちの山からあっちの山から、また向うの山さ鳴り響くときが、これは空悪れくて、うす頭痛いて、頭、木さぶっつけんなだど。なて言うて、これも雨』
『山鳴りすっ時、ごうごうて。これは天気が変る』
「ようし」
 また、それも書いた。ほれから、
『夜空が、星がうんときれいで、しかもピカピカて、いつもより輝いた時、これは次の日は風だ。ものすごい風が吹く』
『トンビが低く舞うとき、これは雨。あるいは低く高く、低く高く安定しないときは、嵐の前兆だ』
「よし」
『それから、雷様。東の方で鳴っどきは、なんぼ大きい音でも、東かみなり様雨持たずて言うて、決して雨降らね。その日は安心してでええ』
『猫が布団の脇あたりにいて、布団さ顔埋めて、下向きになっていっどきには、これは雨だ』
『クモが巣かけて下向きになっていっどきは雨、上向きになっていっどきは天気』
「よし」
『たまたま、今度、石ごろ辺りさ大きな青大将がにゅるにゅるって出っ時には雨だ』
『川原の霧がのぼっ時は雨が上らない。ずうっと下りの方さ流っで行く時は晴の天気だ』
「うん」
『ほれから、どこの村にも頭のテコヘンな、そいつが上り下り、何か分からねこと言って跳ね廻って歩くときは、こいつは必ず雨だ』
『小虫がテンマリになったり、離っだり、どんどん飛び交うとき、これも雨』
(びっき)が次々にリレー式に啼くとき、これも雨』
『まぁ、雨降ってるが、途中からミンミン蝉が急に泣き出した時、これは晴れる前兆だ』
 こういう風にずうっと言うて行って、それを提案した人が、みんな十日間人足赦免、あるいはそのうち、うんと当った人が十五日間赦免だった。ところが今まで言うたうち、十分て言うわけには行かなかった。いろいろなことで当りはずれがあった。
 で、殿さまは晴れの時には、煙硝はたきて言うて、火薬はたきすんなね。いろいろ混ぜものあったそうだ。楠の木、麻の木、炭にして混ぜる。セン屑て言うて、鉄削ったのを混ぜる。あるいはその当時は黒色薬なて、黒い火薬、そういうものをみな、(はた)き合せて作った。その叩くときに雨降りだど、非常に通らね。(ふるい)に……。通らねくて難儀するし、火薬も非常に()かね。不発になのばりなる。んで、天気のええ日選ばんなねがった。
 ところがある男の人が黙って居っけんども、
「お役人さま、お役人さま、今日の昼間から雨」
 ものすごい曇った日でも、
「ああ、今日の(なん)(とき)から晴れ、晴れ」
 これもまた十分当った。ほんでその人が五十石の禄高頂戴して、お天気の相談役になった。ほして、「今日は、天気は(なん)た」て聞くど、居ねぐなって、どさか走って行ぐ。「おかしいなぁ」て言うわけで、ある人がそおっと後ついて行ってみた。
 ところがその便所(せんち)んどこさ、褌ぶら下げっだけ。ほして褌て言うのは、何年も洗濯したことないような、醤油さつけたような褌、上から下までずうっとしごいて、ハシャハシャしてっど「晴」。しめらっとしてっど「雨」。何だか秋遅く、少しツァリツァリして凍みで来っど「霜の後、雪だ」て言うた。その褌が一番と、天気予報の晴雨計になっていだんだけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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