5 河童釣り

 むかしむかし、とってもケチンボウで大金持いだっけど。
 そしてある若者が、正月すっだいと思っても、正月に何かえ食うものもない、困ったもんだ。
「よし、何か、こりゃええ考えないべか」
 と思って考えだ結果、
「あのケチン坊の長者だます以外にない」
 と、一策を案じて、そうしてパカパカ、長者の家さのり込んで行った。
「旦那さま、旦那さま」
「ああ、どうした」
「実は江戸の見世物屋から頼まっで、河童とって呉ろて()っだ。河童一匹十両で買うて言うわけだ」
「何、十両」
 その長者の目は輝いた。
「ほんで旦那さんさ五両あげて、おれ五両でええから、その段取りすっから、その資材費、何とかお願いしたい」
「資材なて、どういう風にかかる」
「いや、実は他でもない。河童て言うものは、どこそこの池にいる。旦那とおれ食う夜食、準備してもらいたい」
「うん、ほだな簡単なもんだ。それだけでおれさ五両呉っか」
「はい、五両お上げします」
「よし、ところで若衆、おればほの河童()()て行かねか」
「いやぁ……」
「いや、おれぁ、河童()めざぁ、今迄いろいろ、雑魚捕め、キジ打ち、ほら熊獲りなど見たことあっけんども、河童とりだけ見たことない。何とかおれば()て、んじゃ」
「いや、旦那、河童とりさ御座らねでけらっしゃい」
「いやいや、()てんじゃ。おれぁ、むかしから言うたもんだ。金主六分、事業主四分、四分六分が常法か、五分五分でするんだぞ、お前、ほのぐらいだも、おれば()て行かんなねっだな」
「いや、そう()れれば、ほういうわけだ」
 そして、行く道々、旦那と語って行った。
「河童ざぁ、とっても(さと)いもんで、音には慧いし、まずすぐ人の音など聞いたりすっどはぁ、さっと池の中さ入って行ってしまうからって、ほんじゃ旦那、約束して()っか、絶対に声出さねって……」
「ん、約束する。ええ」
 ほして、その若者は牛肉一貫匁ば(けつ)さぶら下げるふりして、ふところさひょいと入っでしまった。
「んじゃ、旦那さん、ここの土堤の陰から見ててけろ。おれぁそこで、しゃがむから」
「しゃがむて、なしてだ」
「いや、河童ざぁ、肉は好きだげんど、その他に好きな、屁なんだ」
「屁、とんなもの好きなもんだ、なしてだ」
「むかしから、屁のカッパ、河童の屁て言うぐらいで、屁くらい好物なない」
「なるほど、うまいこと知ってだもんだな」
「なかんずく、この、とりわけ一番好きなは、この屁玉の、小玉好きだ」
「ほう、屁も大玉と小玉あっか」
「ありあんす」
「んでは丸くたっで、大きくたっだり、ちっちゃぐたっだり、ちっちゃこい方の屁好きなか、河童は……」
「いやいや、旦那の方でない。尻さくっついてる尻小玉、屁の小玉でございます」
「ああ、そうか、あれは、そう言うか、屁の小玉て言うか、なるほどなぁ、屁の子、屁の小玉な、よし、それ好きか、そこガブッとやられたら、お前……」
「いや、ほこ、金取りだも、少しぐらい仕方ないっだな」
「くっついで取らっだら、どうする」
「いや、ほこは商売人だも、くっついで取らっだんでは身も(ふた)もないから、ほんどきはちゃんと縛るように、ほりゃ縄もって来たから、ほして、若干の間を入れながら、屁たっでいんなねなだから、んないど河童現わんね。ほして牛肉をチャプチャプさせて、匂いさせて、屁の匂いと牛肉の匂いと塩梅よく流しておくと河童が、この尻小玉の屁の子玉好きだ。屁の大玉は匂いは好きだかも知んねぇげんども、小玉目的で来っから、旦那よく見てでけらっしゃい」
「ほう、面白いもんだな、これはよし。おれはこっちから、見当つけて見でっから、どうだ、こりゃ朧月夜だげんども、雲かかっど釣らっか、それともパッと明るくなっど釣らっか」
「まず、河童の(まなぐ)ざぁ、夜行性ていうこと聞いっだから、明るい暗いに関係なく釣らるんだげんど」
「んだべなぁ、ほだほだ、そういうわけだ。よし、見てる」
 ほの、ちゃぽちゃぽして、かがんでいても、そして時折口で屁たっだ真似して、プップッとその若衆は音立てっだ。丑三の頃すぎても、河童はいっこう現わんね。旦那、しびれ切らした。我慢さんねくて、
「これ、若衆、いつ釣らんなだ」
「ああ、旦那、逃げた。あれほど約束しておきながら、旦那、残念だ。一ぺん逃げた河童は慧くてはぁ、絶対来ねんだずはぁ、いや、今丁度そこまで女河童来て、()()(たん)(たん)としておれの屁の子玉ねらって、いまつうとでとびかかるなぁて言うとき、旦那声出すんだも、いや困ったもんだ。ほんではまず、正月は棒にふった。いや、こりゃ、まず文無しだ」
「いやいや、若衆、そうなげくな、おれも失敗の片棒かつぐ、どうだ。五両でなく二両二分にまけてけろはぁ」
「いやいや、旦那、おれぁ、約束しったんだず、江戸の業者と、女河童とにかく捕えてお上げすっからて言うこと約束しったな、これぁ逃げらっだとあっては、おれぁ男ぶりは下がるし、まず銭はないし、仕方ない、日頃旦那にもごめんどうなっていっから、二両二分で手打つべ」
 と、こう言うて、河童とりの芝居は幕になったけど。ほしてほの若者が二両二分の金―― 二両二分なんて言うど、大したことないようだげんども、先にはワラジ二足作って三文ていうたぐらいだから、これは大したもんだ――ゆうゆうと正月してお釣り来たっけど。どんぴんからりん、すっからりん。
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