2 ホラ吹き大会

 むかしむかし、やっぱりこの楢下の宿で正月十五日て言うど、丁度冬も大分長くなって、いろいろみんな退屈し始める頃、ホラ吹き大会ていうのあった。ホラ吹き大会、嘘こき大会。
 んで、その年は丁度(とり)の年だから、鳥いっぱいとったことについて話すこと、ていう課題がでた。ほして入賞した者はその一年間は人足免除、人足ていうな、いろいろお殿さまの道普請とか、ほら荷物背負いとか、煙硝(はた)き、いわゆる火薬叩きとか、米の積みかえ、いろいろ人足が免除になる。ほして優勝した者には、「ホラの吹く蔵、嘘の語郎」ていう称号が与えられる。大したもんだ。で、正月の十五日、まず、「兎とり」、こういう課題でホラ吹いた人いた。
 兎ていうのは、むかしトリの部だった。今でも一羽・二羽て勘定するが、なぜトリだかて言うど、黒いときは鵜である。白いときは鷺である。夏は鵜のトリ、冬は鷺のトリ、いわゆるウサギて言われる。その兎獲り。かますさ一つ獲った。その獲る方法、
「雪ざぁとかぶって、体全体雪でほとんど隠して、ほして腹の上さそのかますを置いて、右手と左手さ(ふき)(とお)をもってる。ほうすっど兎は木の皮なのばり食って、何か珍らしいもの食いたいと思って、鼻くんくんさせて、ほこら歩った。ほうすっど蕗の苔出てる。『これはうまそうだ』て言うて傍さ来っど、前足ちょっとふんづかまえて、かますの中さスポンと入れる。そんで一匹。はい、また、『ありゃ、あそこさ行ったけぁ、蕗の苔食ねで、どさか行ってしまったけぁ』て言うわけで、次の兎、ぴょんぴょんと来て、また食い始めっど、その兎おさえて、かますの中さストン。たちまち、かます一つ獲った」
 ほんどき、お役人から質問が入った。
「これこれ、それでは、ほの、蕗の苔ないどきはどうする」
「はい、お役人さま、蕗の苔ないときには、ちょんちょこさ黄粉つけて出しておきます」
 ほうしたれば観衆はどっと笑って、まずこれは入賞。
 次はキジ獲り。
「いろいろキジの獲り方もある。糸でヒコキ吊るしておいて、ほして、そのヒコキさはめて獲る。あるいは豆ば、すうっと麻糸に通しておく。キジ釣り。ほれからキジ獲りの人はきわめて足の速い人で、『ほう』て声かけて、先の方さ行って、南京袋、ひょいとひろげていっど、穴あるなぁと思って、そこさひょいひょいと入るがった。この人の足の速いこと大したもんだ。キジはそういう風にして獲るが、山兎の後足、ちょいっとつかまえるぐらい速いがった。これは走るよりも、跳ねるて言うたほうええくらいだった。ほしてキジ、馬車一台とった」
「よし、お前も入賞」
 次は人里離れた、こっから約四・五里もある(かや)(たいら)のずっと奥に、股ぶり沼ていう沼ある。そこは鴨が()(かえ)すっどき、そこの人も来ないところで、鴨がゆうゆう孵返するわけだ。孵返する頃が、またきわめて鴨の味もええ時だ。それで、ほこさどういう風にして行って鴨獲っかていうど、その股ぶり沼さ、六月の末頃、すっぽり入る。ほして頭さクゴで編んだ頭巾みたいなものをかぶる。ほうすっど、鴨は一生懸命、ほこらここら泳いで、疲れっど、
「おお、ええどこへ島みたいなあったなぁ」
 て言うわけで、ほこさちょこんと上がる。上がっど、手で足ちょえっとおさえて、中の方さ()っで、首ちょっとひねって、そんで一匹。
「あら、友だちはもぐった、ほんではおれ休ませてもらうかなぁ」
 て言うわけで、次の奴はちょえっと上がるが、足おさえてキュッと下さ、ほんで二匹。 「ありゃ、またもぐって行った。次、次」
 て言うて、これまた何十匹て獲った。
「よし、お前も入賞」
 ところがその時、ここは大字楢下だげんども、大字楢下小字木立山、今の柏木、その木立山から来た人が、こんどおもむろに話出した。
「みんな大きいものばり獲ったげんど、おれぁ小物で勝負する勘定で来た」
「ほう、これはおもしろい」
 ほして、その人が語るには、その酉年に限って、濁酒(どぶろく)がむやみにええあんばいに出た。それで、その濁酒をフゴさ入って、通して澄み酒つくる。澄み酒つくって、その粕を、むかしは柏葉―― 柏て言わないで、大楢、樫楢て、楢の分に帳面つけっだ。ほして大楢さ粕ば親指大もあるほど、ちょこちょこ、ちょこちょこ箸ではさんで、広場さ置いっだらば、雀は、
「いや、ええ米、真白いなある」
 て思って舞い降りて来て、片っ端から突っついた。突っついでいるうちに、(たん)(だえ)雀が気分ええぐなって、ほしてとうとう、大楢の葉っぱの上さ、昼眠してしまった。ところがそこさお天道さま当って、やっとその大楢の葉っぱくるっくるっとくるまって、全部雀の柏餅できてしまったわけだ。こういう風にして何千羽と獲った。
「よし、これは一番だ、なかなか思いつきがええ」
 こういうわけで、柏の葉っぱで雀とったていうわけで、その人が「ホラの吹く蔵」という称号をもらうことになった。ところがその人曰く、
「称号いらねから、家の部落を柏の葉木立山と言うたところ、柏木にしてもらわんねべかぁ」
 と、こういう風な申出があった。それでそれ以来、大楢のことを「柏の葉」、「柏」ということになって、そして柏木ということになったど。
 んで、今でもその、大字楢下の山村台帳には「木立山」その上さ「柏」をつけて、柏木立山ていうのが、現在でも公簿にのっている。どんぴんからりん、すっからりん。
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