13 大まくらいの話

 若衆、寄合餅搗いたど。毎年のことなもんだから、ここら辺りの若衆、やると同じように、みんなで食うたけの餅を搗いたわけだ。それを。したら中にコツナシな野郎いて、
「どうだ、おい、これを一人で食(か)れる人いたか」
 て言うて、盆に山盛りに、五升餅をあげて持ってきた。そしたところが、
「おれ、食うべ」
「食うはええども、お前がた、どうするんだ」
「いや、それはお前んどこさ、寄合餅のかかりは掛けないし、お前んどこ何かこんど手伝いでも、村でおらだ一日行くべ」
「そうか、それ食いさえすれば、おら家さ一日みんな手伝いに来っか。掛りは今日はかけねか」
「それさえ食えば、それだけだから、すんべ」
「んじゃ、おれ食う」
 と言うのが、現われて餅を食った。そしてだんだん、だんだん食って行ったれば、何といっても五升餅だから、なかなか入って行がねぐなった。始めのうちはあたり前にして食ってだげんども、だんだん、だんだん背骨を真っ直ぐにして食った。ほんでも入って行かなくなったもんだから、こんどは柱さ押っかがって、ずうっと背中伸ばして腹ゆさぶって中さ入っでやっては、押込み、口あければ見えるようになったななを、中さ入っでやっては押込みして、べろり入っでやってしまった。
 さぁ、入っでやったはええども、こんどは水も飲めなければ曲がりもさんね、なんとして呉れんべかな、これはどうも皆んないたところで出すわけにも行かねから、というので、ソロッと、ホラ吹きは後の方から山さ行った。山さ行ったら、滝あるはずだから、その滝さ口つけて飲めば水も飲めんべと、ほんでずうっと、ソロリソロリと歩いて行ったどこ、どうもこわくて、腹に入っているもんだからわかんね。土に腰掛けて、デカンとして休んでいた。ところが向うの方から蛇体がきた。ノロノロ、ノロノロときた。ところが見るというと、腹の真中が抱きつかんねほど大きくなってだ。
「おれも、あれと同じように腹ふぐらしった」
 て見っだところが、蛇体はそこに生(お)えっだところの草をパクパク、パクパクと食った。
「何しんなだべ、蛇体、あんなもの食って、何なんだべなぁ」
 て見っだところが、そのうちに腹がすうっと細くなって、ゴロゴロ、ゴロゴロと来たのが、こんどすらすら、すらすらと帰って行ってしまった。
「はぁ、あれを食えば、腹空(す)きんなだ。ほう、おれもあれを食えば腹空きる」
 と言って、草を食ったわけだ。一生懸命になって草食った。こんど若衆の方では寄合餅みんなで食って、
「あの野郎にばり、いっぱい食せたもんだから、みんなで食うのが、ちいとであったな、どうも今日はうまくないなぁ、あの野郎、どさ行ったべ。いねぐなってしまった。どさ行ったべ、まず」
 て、家さ行ってもいない、あっち探してもいない。こっち探してもいない。裏口の方見っど、山さ行った跡ある。ずうっと行ってみた。したどころが、木の根っこのところに、お供え餅みたいな餅だけ、ストンと残っていたけど。むかしどーびん。
「なんだ、じんつぁま、そんなこと語って…」
 て聞いたら、
「それは、蛇体は人ば呑んで来たんで、その草食うど、人消える草なんだから、餅食った男もその草食ったから、人の方消えて餅残ったなだべ、そういうのだべ。分んねなだか」 
(塚原名右ヱ門)
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