18 親 孝 行

 あるところに、孝行な子どもがいて、親さ一生懸命で尽されるだけ尽してみたいと思っていだど。父親は先に死ぬ、母親は病気で働かなくて食(か)んねくなったもんだから、近いとこの、ある旦那さまさ、親さ時々伺われるようにお願いして、勤めていたところが、そのおっかさの病気も治んね。会う人、会う人に、
「何かええ医者はないか、ええ口言わねぇか、親が死ねば、顔見らんねくなるのだから、一日も半日も長く親生かしておきたい」
 と思っていた。ある人に、
「こういうところに、ええお医者さまがいて、その人の薬飲んだらば、またマメになられっかも知(し)んね」
 と、こう教えらっじゃど。そのことを旦那さまさ話したところが、
「お前には病人がいる。行くわけにも行かないし、来てもらうには相当な銭もかかる」
「ほんじゃらば、医者さ行って話をして、医者に薬をもらって来てみたらどうか」
 と、旦那さまは言っておくやるもんだから、
「一年分、銭をお借りしたい」
 というたところが、
「ええとも、ええとも」
 と、一年分の薬代にするの頂いて、そして峠越えして、ようやく着いて話したところが、
「ほんじゃらば、遠くから来たから、早く話を聞く」
 といっておくやったから、その話したところが、
「んじゃ、三日分の薬やっから、その薬で治んねじど、考えもんだから…」
 と、その薬をいただいて来て、また山に通りかかったところが、
「助けて、助けて」
 という音がする。しかし一時も早く行って薬飲ませたいもんだな、入って行かね方がええかなぁと思ったげんど、助けて、助けてという声するもんだから、行ってみたらば、虎に向わっで、その人は太い棒で向っていたげんども、太い棒噛らっで、何とも困っていたっけど。その人は、
「この棒持(たが)って呉ろ、虎さ向って行んから」
と、こういう風だけど。ほでに、そうかと薬を風呂敷がらみ置いて、棒持(たが)って、身構えしったところが、その風呂敷包み持(たが)って逃げたど。そうすっじど、こんど
「しまった」と思って、
「薬、親さ飲ませたいもんだなぁ」
 と叫んで、夢中になって、本性なくなったど。そしたところが、目覚ましてみたらば、虎がいなくて、
「助かった」
 と、薬探ねに降ってみたところが、血が落ちていたど。そしたば、風呂敷を投げて、その者は虎に殺さっでいたど。
親孝行の者は助かるし、悪い者は虎に殺されだど。んだから心持ちのええ者は助かるもんだど。

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